カーボンニュートラルに向けた水素製造・P2Gと関連技術の最新動向
= 刊行にあたって =

 国内では、家庭用燃料電池が2009年に、燃料電池自動車が2014年に一般市販化されるなど、日本は技術的に水素・燃料電池分野において世界をリードしてきた。水素・燃料電池戦略ロードマップでは、家庭用燃料電池を2020年に140万台、2030年に530万台導入、燃料電池自動車を2020年に4万台、2025年に20万台、2030年に80万台を導入するとの目標が掲げられている。これまでの導入実績を分析すると、家庭用燃料電池は10年以上の導入遅延、燃料電池自動車は6〜10年の導入遅延である。一方、2015年のパリ協定において2℃目標から踏み込んだ1.5℃目標が明示的に言及され、2018年に1.5℃特別報告書が公開されてから、2050年にカーボンニュートラルを達成することの社会的要請が先鋭化してきた。エネルギーを電化し、再生可能エネルギーで電力をまかなう、ということでは対応できない用途のカーボンニュートラル化のために、水素の果たす役割の重要性が認識されてきた。このような潮流と並行して、国際情勢による資源調達リスクが暮らしに身近な形で顕在化し、再生可能エネルギーの役割が増していく中、余剰電力の活用、エネルギーの備蓄も含めて、水素に対する期待が高まっている。

 本書では、先端研究に精通する著者によって、種々の方法による水素の製造、水素とCO2を原料とした合成炭化水素合成による二酸化炭素の資源化について研究開発の動向がまとめられている。水素製造の後段では、水素を輸送・貯蔵していくことも重要であり、水素のキャリアや貯蔵材料に関する動向もまとめられている。さらには、電力を水素に変換するP2Gについてシステムの観点から現状の課題と今後の展望が示されている。

 2050年のカーボンニュートラルは、既存の延長線では達成することが不可能である。本書は、将来を変え得る水素・P2Gやその関連技術の開発動向を知るには最適な一冊である。

                         
信州大学 先鋭材料研究所 教授 古山通久
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