発刊の言葉

 分子がエネルギーを受けて励起されると,核間距離をほとんど変えることなくエネルギー準位の高い分子となる。励起分子のもつエネルギーは,熱として,またある場合には光として放出される。
 夏の野山の風物詩となるホタルは,酵素反応で生じた励起分子が効率よく,そのエネルギーを強い光として放出する稀なケースである。最近,高感度な光検出器が開発され,生体材料から,また酵素反応の過程での「目にみえない」微弱発光の検出が可能となり,発光のスぺクトロメトリーから短寿命の反応中間体の検出,発光のメカニズムなどの解明が可能になりつつある。
 また,細胞老化・油脂の劣化に伴う発光は,それらの程度を知る指標となる。
 化学発光の過程で,酸素や活性酸素が関与する反応は,種々の酸素種の検出,定量に用いられている。
 生物発光系,ホタルやオワンクラゲは,それぞれ生体材料中のATP,の測定に役立っている。
 本書は,化学発光・生物発光の原理,測定法及び応用について,第一線の研究者により執筆された。専門の研究者はもとより,専門外の学者,研究者及び学生諸君が生物・化学発光に関する基礎知識を学び得るために十分役立つものと信じている。
1990年6月  〈稲場文男/後藤俊夫/中野 稔〉
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