出版にあたって

 本書は現在における物質(分子,イオン)の最も重要な分離・精製・検出法について,その基礎および応用を体系的に記述し,大学や国公立および民間の研究所の研究者および技術者,また関連領域の学生が各々の分析法の基礎的事柄を知り,また現場で実際に分析する場合の指針となることを目指した。
 現代の分析化学は非常な速度で発展しており,新しい原理に基づく分析法の創案はもとより,その扱う被分析対象の多様性から感度,精度,確度や選択性などについてたゆまぬ進歩が続いている。例えば検出下限ではfemto(),atto(),Zepto()mol/ととどまるところを知らず,扱う試料溶液もnano(),pico(),Sub-femto()?と続く。さらに選択性も例えば抗生物質valinomycinを用いるイオンセンサはイオンが1万倍共存してもイオンを検出することができる。
 また分離化学でも,キャピラリー・ゲル電気泳動では理論段数がに達するものもある。このような分析法の進歩が新しい応用を生み,新しい応用における必要性がまた新しい方法を生み出す。
 このようなときにあたり,本書が現時点での本領域の進歩と基礎の応用両面を総覧し,最重要知識の供給源となれば関連方面の随所に常備される書籍となることが期待される。 基礎編では理論や手法,測定例を可能な限り新しいところまで記載し,また応用編では同じく現代における各最重要の応用分析のルーチンおよび新規手法を解説した。共に最新・最先端(いわゆるstate of the art)の分析法が欠けることのないようにした。なお,.磁気共鳴(NMR,ESR)および表面分析法(最近のSTM,AFMなどを含む)は大変重要な領域で当然欠かせないものであるが,きわめて広範なものであり,本書の狙いが分析化学のコアである分離・精製・検出法に文字通り力点を置くことであるため,あえてこれらを割愛し,他書に譲ることにした。
 本書が世紀の変わり目に臨む向こう10年間ほどの分離・精製・検出法の進歩およびその応用に重要な寄与をすることを期待する。
 最後に,ご多用中にもかかわらずご執筆をいただいた多くの専門の研究者の方々に心より感謝の意を表する。なお,本書が出来上がるまでに(株)エヌ・ティー・エス松風まさみ氏に編集のご努力をいただいた。ここにお礼を申し上げる。
1997年5月  監修者 梅澤 章夫
澤田 嗣郎
中村  洋
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