監修のことば

 近年,吸着技術は急速な進展を遂げました。それは,世界的な生活レベルの向上,ハイテク(とくに高度分離技術)の進歩と環境保全技術の普及が要因になっていると思います。そして,世界の状況を眺めてみたとき,わが国のこの方面の研究・技術水準が高いことは,多年,協力者とともに吸着技術の研究にかかわってきた者の一人として大変幸せに思いますし,同時に思い返しますと,大勢の相手との競争はたいへんなものがありました。
 さて,吸着技術の進歩の跡をたどってみますと,各種の溶剤蒸気の大気への放出防止のための回収・除去技術,大気汚染防止のための燃焼排ガスなどの浄化技術,各種の工業で活発に行われているガスの分離・精製技術(例えば,圧力スイング吸着(PSA)技術),その他各種の吸着材を用いた溶液精製と必要成分抽出のためのクロマトグラフィー,および活性炭吸着を応用した水の高度処理技術などの成果が挙げられます。また,最近では,バイオテクノロジーの名の下に,医薬品製造,生体・生物工学関連の分野でも,吸着技術を応用し,あるいは他の技術と複合していろいろな成果が上げられております。
 そのような技術が実現するには,各種の吸着材を作り,その性質を測定・表示(キャラクタリゼーション)できた関連工業の技術水準の高さも挙げなければなりません。ほとんどあらゆる種類の吸着材(私はこの用語を広めたいと思って使用しています。)が入手できるわが国の状況は大変幸せというべきです。
 ところで,応用技術の進歩は基礎となる科学・技術の進歩に負うものでしょうから,吸着技術の進歩・発展は,吸着科学と吸着工学の成果を用いた吸着操作の解析・設計法の進歩とも関連が深いと思います。これらの解析・設計法に関する成果の中には,世界に誇るものも多いと思います。
 そこで吸着技術の現状をまとめ,今後の一層の普及・発展に寄与する目的で,本書の編集を企画しました。
 編集にあたっては,吸着技術,吸着材,吸着プロセスの解析と設計,の三つの相互関係を考え,研究・技術の第一線にある事項を網羅し,第1編では各種の吸着プロセス,第2編では吸着材の製法と利用上重要な各種の性能の測定法,最後に第3編では吸着操作の最新の解析法と設計法を紹介していただくことにいたしました。
 なお,編集委員会では,各執筆者から提出いただいた原稿を閲読し,必要に応じて加筆・訂正していただきました。ただし,各稿の重要性を尊重し,あるいは,明確な分類は困難であると判断したために,場合によっては内容の重複を認めることといたしました。
 多数の技術・研究の第一線におられる方々に執筆をお願いした結果,刊行までに思いがけず長い期間を要しました。早めに原稿を提出いただいた方々にはご不満があったかもしれません。しかし内容によっては最新の情報が盛られていることを考えてご容赦願いたいと思います。執筆者の皆様のご協力に厚くお礼申し上げます。
 刊行にあたっては,(株)エヌ・ティー・エス吉田隆社長,同社編集部松風まさみさんに大変お世話になりました。記して心から感謝いたします。
1999年1月  監修者 竹内 雍
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