はじめに

 化粧品は日常の生活と密接に関わり、同化しているため、その機能を改めて意識することはほとんどないが、その中には驚くほど洗練された先端の科学技術が巧みに利用されて機能を発揮している。しかしながら、ひとつの化粧品を支えている基盤分野は、皮膚生理、コロイド・界面化学、微生物、粉体工学、光学・色彩科学、心理学・社会科学と多岐にわたるため、その一つ一つを独立して取り上げても“化粧品の技術”を語ることにはならない。それぞれの分野における知見や技術進歩が互いに作用し合い、化粧品の高機能化を促しているからである。また、生活社会環境の変化とそれに伴う生活者の意識の変化も化粧品の訴求や機能設計に反映され、化粧品の進化を促している。
 本書は、化粧品技術内容をできる限り本質的に解析し、解説を行うことをめざし、第一線で活躍中の企業研究者により、1.化粧品の背景にある生活環境や科学技術の変遷解析、すなわち「何故そのような化粧品あるいは素材・技術が望まれ、開発されるのか」、2.化粧品あるいは素材の設計(基本訴求と技術者の発想、開発アプローチ、具現化のための工夫)、3.基本製剤技術および注目されている素材開発、4.応用商品化技術、すなわち「素材・技術を組み合わせていかに機能性化粧品として仕上げたか」について解説を行う。
 本書で取り上げた応用技術分野は、皮膚清浄化粧品(洗顔料およびメイク落とし)、スキンケア化粧品、べースメイク、ポイントメイク、ヘアケア化粧品であり、主な化粧品分野をすべて網羅してあるだけでなく、どれもが実際の商品に応用され、近年の化粧品技術の向上に著しく貢献している最新の技術である。化粧品の技術者のみならず、関連分野の商品開発に携わっている技術者にとって、実際に役立つ本であることを確信している。
 本書の企画に賛同され貴重な技術内容を公表された執筆者諸氏に敬意を表したい。
2002年9月  花王 鈴木敏幸
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