衣料としての繊維技術は人類の歴史とともに進歩し,衣の文化・文明を拓いてきた.人間が生きていくための基本となる衣食住にかかわる技術と科学は21世紀の生活文化や文明にとっても不可欠のものである.また,近年の繊維科学技術は情報・通信,交通,建設,宇宙・航空,農林,水産,環境,資源・エネルギー,医療・健康・福祉など人間生活を支えるあらゆる産業の先端分野に拡がっている.
 本書は,繊維(ファイバー)を細くて長い材料の形態としてとらえ,この1次元材料を撚り合わせ糸にし,さらに織ったり編んだりして,階層化して集合構造を形成することにより高次機能を発現し,これらを組み合わせてあらゆる生活産業分野の製品として社会で用いる科学と技術を対象としている.ここで取り扱うファイバーの太さはナノメートルオーダーの分子繊維から数ミクロンオーダーの実用繊維まですべてを含み,ナノファイバー,バイオファイバーなどその極限構造の追求と階層的多次元構造から創出されるファイバーバイオミメティクス,ハイパフォーマンス/ハイブリッド繊維,オプトエレクトロニクス繊維などの高次複合機能の発掘,およびこれらを基に新しい繊維関連製品を開発するファイバーロボティクスと繊維感性システムに関する基礎から応用までを詳述している.
 これらは,信州大学が平成10年度から取り組んできた文部科学省科学研究費COE形成基礎研究費による先進繊維技術科学に関する研究成果を踏まえて,従来の繊維工学にバイオテクノロジー,新素材工学,メカトロニクス,感性システム工学などの最先端工学を融合させ,21世紀のライフスタイルと文化を創造する21世紀COEプログラム先進ファイバー工学研究教育の成果と展望を体系的にまとめたものである.この新しい視点のファイバー工学の中から多くの開発テーマが発掘され,わが国ひいては世界の繊維産業はもとより多くの関連産業に明るい未来を拓いてくれることを願っている.
平成16年11月
信州大学大学院21世紀COEプログラム
先進ファイバー工学研究教育拠点
拠点リーダー 白井江芳
編集委員長 山浦和男
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