近年、化学関連産業の災害が多発している。2003(平成15)年には花火工場の爆発事故、浮き屋根式タンクの火災事故、タイヤ工場の火災事故,ガスホルダーの爆発・火災事故、タンク工事中の火災事故、RDF貯槽の爆発・火災事故などが連続して発生した。これらの事故の原因として、安全知識の不足、安全意識の低下、安全管理の問題が指摘されているが、その背後には、産業の高度化、多様化、国際化などの進展に伴う産業構造の変化、経済の発展に伴う人や社会の変化などの問題もあろう。
 化学物質による災害の再発防止のためには、これまでの事故解析に見られるような事故概要、事故発生状況、事故要因、事故の再発防止対策といった知見のみならず、さらに踏み込んで、事故の発生過程の体系化や直接要因、間接要因および背後要因を含めた事故要因の体系化を行い、それらの知識や教訓を大学の安全教育や産業界の技術者向け安全教育に活用することが重要である。
 折しも、失敗知識データベース推進委員会(畑村委員長)は、科学技術懇談会での答申を受けて発足した失敗知識研究会の提案により、独立行政法人科学技術振興機構でスタートし、機械分野、材料分野、化学物質・プラント分野、建設分野の4分野において、失敗知識データベースの作成を行うこととなった。失敗知識データベースは従来のものに比べて、失敗の本質に迫りたいとの意図から、よもやま話や関連情報など周辺情報まで含めた特色あるものとなっている。
 筆者らは化学物質・プラント分野での失敗知識データベースの作成作業に取り組み、約330事例の失敗知識データベースを作成した。また、これらの失敗知識データベースを有効に活用するため、事故発生過程および事故要因の体系化を試み、それらの知識や教訓の安全教育への適用について検討した。 本書はこれらの成果をまとめたもので、第1部:事故事例の活用編、第2部:事故事例データ編、第3部:失敗百選、第4部:用語・物質編からなる(中略)
 本書が化学物質を取扱う管理者、化学関連産業の技術者、研究者、作業者のみならず、大学などにおける化学安全教育に関係する方々にとって、有効に活用され、化学物質を取扱う化学プロセスにおいて、災害の発生の低減につながることを願っている。
2005年 師走 田村昌三
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