手の平サイズの基板の上にマイクロメートルスケールの溝を刻んで、その上にさまざまな化学分析や化学合成、バイオ実験などの操作を集積化するマイクロ化学やマイクロバイオの研究が注目され始めて既に20年近く経過する。従来はフラスコやビーカーあるいは反応槽や蒸留塔などの器具や装置を使っていた化学反応・分離・精製・検出などの化学操作をマイクロ空間に自由自在に集積化することで、操作に必要だった時間や手間を大幅に軽減でき、また、分析やバイオにあっては試料や試薬量の低減、化学合成にあってはエネルギーや分子あるいは電子移動などを高効率化など、さまざまな効果を引き出すことがでる。さらに、チップやチャネルを並列化することで分析やバイオのプロセスをハイスループットにしたり化学合成品の大量生産にも対応することができ、直列に配置することでマルチステップの複雑なプロセスにも対応することができる。応用範囲は化学、バイオ、医療、環境、農林水産、食品など極めて広範囲にわたる。(中略)
 2000年前後からもっと広い範囲で応用できる汎用的なマイクロ集積化の方法論の研究が日本を中心に推進されてきた。流体制御では電気浸透流から圧力送液をベースとした方法とそれを支える技術が開発された結果、有機溶媒や中性分子にも適用範囲が拡大した。有機溶媒と水溶液の二層流・多層流やドロップレットの技術に急速に展開していく。電気泳動分離のみならず、溶媒抽出やクロマトグラフィー、抗原抗体反応と免疫化学的分離など、さまざまな分離化学や分析原理も自由に取り入れることができるようになった。また、検出法についても電気化学検出や化学発光検出、熱レンズ顕微鏡、質量分析計をはじめ、蛍光法以外のさまざまな方法が開発され取り入れられてきている。実際に、実用化あるいはそれに近い開発例の報告は、2000年以降のこうした汎用的なマイクロ集積化の手法とその応用が圧倒的多数を占めるに至っており、細胞の培養・制御・分析などバイオ関連分野への新しい展開が世界的にも非常に活発である。また、我が国においては、各省庁や研究助成機関の支援による産官学連携が進んだ結果、実用化目前のプロトタイプシステムも実現している。
(第一遍より抜粋)
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