粉体の上手な取り扱い方とトラブルシューティング
発刊にあたって
技術者が粉体の設備に取り組む場合、装置の選定とトラブル対策が重要なテーマとなる。そのとき、技術者個人にとって周囲に助言者があまりいない孤独な検討作業であることも多い。
装置を選定する際には、扱う粉体の種類が多い上に、プロセス、単位操作機器がまちまちであることに技術者は惑わされる。単に粉砕機ひとつをとっても、原理の異なるものが数多く存在する。ほとんどの技術者にとって、それらの全機種を見る機会はないといってよいほどである。さらに粉体装置にはメーカーによって構造が異なるほどのバリエーションがある。また、たいていの装置は注文を受けてから製造していることが、バリエーションが生まれる原因にもなっている。日本のメーカーにはユーザーの特殊な条件に合わせて仕様を変えることをいとわない姿勢があり、バリエーションは限りなく増えていく。そればかりではなく、粉体の物性が異なることから、ある課題を与えられたときに「このプロセス・装置をこのように用いればうまくいく。」といった形で結論づけることは容易でない。
では、技術者たちはどのようなアプローチで選定作業をしているのか。多くの装置のうちから、経験と勘で装置を選定し、対象となる粉体で実物試験をして要求仕様におおむね収まれば、「まあいいか、これでいこう。」と決定してしまうことが多いのではないだろうか。経験豊富な技術者が選定を行うことで検討の時間を短縮し、費用としても当たらずとも遠からず、というまあまあの結果になることは多い。しかし、選定を担当する技術者に対して、プロセスの汎用的な考え方と個々の装置に関する知見をできるだけ実用的な形で提供できれば、経験だけに頼らなくてもよいことになる。
トラブルの予防と対策についても同様のことが言える。さまざまな粉体が、多岐にわたるプロセスや装置で処理される際に生じるトラブルは多様である。しかし、よく検討すれば共通点も浮かび上がってくる。経験はなくても、実際に発生しそうなトラブルに関して、あらかじめ知見が得られれば対処できることもある。
本書には、粉体物性と機能性付与の方法が述べられ、また、粉砕・分級・混合・偏析・空気輸送について、選定に役立つ内容が盛り込まれている。さらに、諸操作における粉体特有のトラブルを多面的に取り上げ、その予防のための処置、生じた際の対処法が述べられている。
粉体に関する設計技術を、暗黙知である勘から、形式知である汎用的な知見へと高めていくことは容易ではないが、多くの事象と理論から共通する方向性を示すことで、より広範に適用できる技術へと進めていくことはできる。微力ながら、そういう流れの一助となる本書に関わることができたのは幸いである。快く引き受けていただいた執筆者の方々のご協力に感謝申し上げる。

小波 盛佳
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