日本語版への序

 今日,環境分野における逼迫状況が意味するのは,資源埋蔵量が不足しているというよりも,むしろ下流における受け皿のキャパシティーが益々減少してきたこと,言いかえれば,原油やマンガン資源が近い将来に枯渇するということ以上に,二酸化炭素や汚水を受容する大気圏や水域圏,あるいはごみ処分場が益々余力を失い,そのため経済的発展が制約を受け,その方向が決められていることである。一般廃棄物技術指針(TA Sied-lungsabfall/TASi/※家庭ごみ埋立処分場・被埋立物質に関する技術基準)をキッカケとして,数年来,一種の廃棄物の氾濫現象が見られるようになったが,これは一時的なものにすぎない。処分場の一部は(※技術指針により)閉鎖される運命にあるが,実際に操業を止め,また,現在の焼却炉が旧式のものになれば,実態がまた顕在化しよう。
 80年代の中頃に拡大生産者責任を介して廃棄物問題を解決しようとする構想が生まれた。この考えは,廃棄物の少ない循環経済を構築することを目標とし,処理費用の内部化手法により具体化すべきものとされたのである。  生産者にとって残留物質が余分の費用を意味すれば,たとえ国の個別法規が制定されなくても,生産者には,その物質の減量化を図ろうとするインセンティブが作用しよう。循環経済・廃棄物法は,まさにこのようなアプローチから試みられたものである。
 他方,夥しい種類の物質は,循環経済の対象ではない。例えば,二酸化炭素,殺虫剤,肥料等はリサイクル性を持たず,鉱山廃棄物や産業廃棄物については,その一部しか循環へ戻すことができない。このような場合にはマテリアアルフローを管理して,原料のインプット総量そのものを抑制しつつ,残留物質をリサイクルに適合させようという試みが行われる。
 本報告書は,循環経済・廃棄物法の2年に及ぶ運用期間が経過した時期にクリティカルな分析と総括を行い,今後改善すべき諸点を示している。これらの可能性を活用することは,環境面からだけではなく,経済的な理由からもまた緊急の課題である。
1999年9月  ヴッパタール気候・環境・エネルギー研究所所長  連邦議会議員
エルンスト-ウルリッヒ・フォン・ヴァイツゼッカー(Prof.Dr.Ernst Ulrich von Weizscker)
推薦の言葉

 廃棄物を出さないリサイクル社会の実現をめざして、この数年、廃棄物処理法の改正をはじめとして様々な施策が実施されている。このため、テレビや新聞などマスメディアでも廃棄物問題を取り扱わない日はないほど、関心がもたれている。この時いつも我々の廃棄物処理の手本として紹介されるのがドイツの姿である。特に循環経済・廃棄物法により、徹底したリサイクル社会を構築した理想の国として日本で引き合いに出されることが多い。
 循環経済・廃棄物法は1994年10月に制定され1996年10月から施行され3年を経過しているが、本書はその運用実態を調査し、廃棄物政策及び立法を巡る問題点を指摘するとともに将来とるべき施策を示唆した興味ある報告書である。
 本書は二部で構成され、第1部では循環経済・廃棄物法の成果と提言が行われている。この中で製造者責任の不徹底やコスト増による廃棄物の不適正処理(原著者はエコダンピングと称している。)を指摘しており、特に循環経済・廃棄物法の施行に照準を合わせてつくられた特別廃棄物技術指針(1991年)や一般廃棄物技術指針(1993年)の適用猶予期間である2005年までにコストの安い既存の処分場や東欧の処分場に駆け込み処分する動きがあることなど興味ある課題が挙げられている。第2部は原著に加え廃棄物法制度の概要と最新主要法令について、わかりやすく翻訳整理されている。
 前述したとおり我が国においても循環型社会の実現に向けて、最大の努力がはらわれているところであるが、これに関わる企業や研究者、行政の方々あるいは市民活動家や学生の方々にとっても良い参考書になると思われる。
1999年11月  福岡大学教授 花嶋 正孝
推薦の言葉

 ドイツの循環経済・廃棄物法は1994年10月に公布、1996年10月に施行され、今年で3年を経過した。我が国でも理想的な循環型社会へ向けての法律としてマスメディア等を通じて紹介され、我が国の廃棄物処理法の改正や容器包装リサイクル法等にも少なからず影響を与えた。また、循環経済・廃棄物法の施行を前提として先行施行された特別廃棄物技術指針や一般廃棄物技術指針は、当時、EU諸国内でも厳しすぎるとして様々な議論がなされた。(同指針については(株)エヌ・ティー・エスより1998年11月に完全邦訳版が出版された。)このように、この数年、環境先進国ドイツブームがわきおこっている感がある。私もこのブームに便乗した一人で1993年以降、数回にわたりドイツを訪れ現状調査を行ったが言葉の問題もあり、なかなか本質的なことが理解できないところであった。特に国で定められた法律や基準の運用が州によりかなり異なることなどがあげられる。このたび中曽利雄氏の編訳によりドイツ循環経済・廃棄物法運用の実態調査報告が出版されることとなったが、極めて興味深い内容となっており、私の疑問も解消された。例えば、循環経済・廃棄物法の運用により廃棄物量が減少し、処理業者間で廃棄物争奪戦がはじまっていること、廃棄物技術指針は2005年までの猶予期間があるが、処理費の高騰が予想されるためこの間に既存施設にかけこみ処分を行う動きが活発であること。また、2005年からは有機物を5%以上含む活性化物は埋立処分禁止となるが、廃棄物の不活性化手段として当初は焼却処理を推奨していたが、最近ではバイオコンポストを推奨していることなど……。
 本書は循環経済・廃棄物法運用の成果と課題及び提言が行われている。さらに循環経済・廃棄物法と最新主要法令についても翻訳整理されており、廃棄物に係わる企業の方や行政の方にとって良い参考書になると思われる。最後に中曽氏の努力に敬服するとともに、今後とも日独のかけ橋として有益な情報の紹介等の活躍を期待したい。
1999年11月  日本技術開発(株)環境施設部長 樋口 壮太郎
編訳者のことば

 ドイツの循環経済・廃棄物法は、1994年10月に公布、2年後の1996年10月に施行された。それ以来、2年半に及ぶ運用期間が過ぎているが、法の正確な内容と実際の運用上の問題については、わが国ではあまり知られていない。この法律の施行後、ドイツでは廃棄物が減量したとか、従って、法が意図したリサイクル社会や循環経済がうまく機能しているとか、肯定的な情報だけが漠然と一人歩きしているように思えるが、わが国の問題とは次
元が異なるものであるにしても、新法の制度は、実際にはいろいろな問題を抱えている。
 しかし、紆余曲折しながらも、循環型経済の構築に向けて、わが国よりもしっかりとした法制度と原則の下に確固としたステップを踏み出し、数歩先を進んでいるのではなかろうか。第一部の報告書が厳しい現状分析をしているにしても、連邦、州レベルの関係官庁、処分場や処理業界、一般企業、それに自治体等の廃棄物関係者と話したことから判断すると、少なくともそのような印象を受ける。
 法制度自体は、わが国よりも明確、統一的であり、70年代から徐々に発展してきた環境政策の三原則(排出者負担主義、予防主義、協調主義)が個々の法令や技術指針に反映されている。連邦法は、州により運用されるにしても、憲法、連邦法、州法、自治体の廃棄物条例との相互関係がはっきりとしている。連邦環境法が統一的、明確であるというのも、80年代に内務省環境保全局が中心となって関係省庁の環境関連所管事項が連邦環境省へ統合され、環境法規は、原則として、環境省が所管することになっていることとも関連するのではないか。その点がわが国の状況とは異なる。もっとも、法令や行政規則が制定される場合には、各関係省庁との調整が行われるのは当然である。循環経済・廃棄物法も経済省や農林省等との協議が行われた。同時に州との調整も行われる。自治体や諸団体の意見もヒアリングされる。最近富みに重要度を増しているのがEU法であるから、連邦法とEU法の絡み合いは無視できない。この点からすれば、わが国よりも複雑であるかもしれない。
 本書の刊行によって、この法律の欠陥や弱点、運用上のマイナス面を伝えようと意図するものではなく、ドイツ人の手による最新の分析を翻訳することにより、わが国の方々に、環境先進国と言われている国における循環社会の構築に向けた法整備の状況とその実態を紹介し、長所と短所を含めて、わが国の今後の立法整備に何らかの参考になればという気持で出版するものである。ドイツの循環経済・廃棄物を手本として、新たな廃棄物法を制定せよ、という意見も聞かれるが、本書が何らかの貢献をすれば幸いである。
 循環経済・廃棄物法は、非常に複雑、難解であり、また、広範なテーマを対象とし、過去の廃棄物法の歴史的な延長先上にある。少なくとも70年代からの廃棄物処理の発展を回顧的に考察しつつ、現行法を理解しなければならない。法の原則や目的が突然生まれたのではない。現行制度は、環境立法や政策の中で生まれてきた歴史的な産物である。その意味でも、一介の外国人が現行法の法文を読むだけや、若干の文献等に目を通すだけでは、
過去に遡る法の深い内容をとうてい知ることはできない。ましてこの法律及び下位法規の運用上の実態を把握することは、素材も日々変転していることと、EU法と国内法の相互関係を常に観察しなければならないから、容易ではない。
 それにもかかわらず、編訳者は、施行後2年間の実態を調査しようと企て、半年前に資料や情報を収集し始めたが、その中で偶然この報告書を入手した。内容的にアクチュアル性が非常に高く、わが国の立法論議にも役立つと思い、他の業務に優先し、この実態報告書の出版に向けて翻訳に専念した。それでも半年以上経過してしまった。諸般の事情から作業が遅々としてしか進まなかったからである。
 この報告書は、昨年9月の国政選挙後、コール首相率いる連立政権に取って代わった新政権を構成する連立与党の社会民主党(シュレーダー首相の属する政党)系のフリードリッヒ・エーベルト財団が、ヴッパタール気候・環境・エネルギー研究所の研究員に調査を委託したものである。同研究所所長のフォン・ヴァイツゼッカー氏は、この度の連邦議会(日本の衆議院に当たる)の選挙で社会民主党の議員となられた。その意味で、本報告書は、旧連邦政府の廃棄物政策及び立法を巡る問題点を指摘すると同時に、連立政権の合意事項にも示されている、新政権が将来採るべき施策を示唆している。ドイツ政府は、連立政権合意事項の中で新たな廃棄物政策の展開を意図するが、政権発足後6カ月では、連邦環境省の廃棄物政策には、まだ新たな動きが見られない。原子力発電からの撤退とエコロジー的税制改革の問題に新政権が重点的に取り組んでいるからであろう。
 第一部の報告書の内容を理解するためには、ドイツの廃棄物法について、ある程度の知識を前提とする。そのため、順序は逆になったが、第二部を資料編として、1)新廃棄物法の概要、2)最新法令ないし業界の自主規制文書の訳文を掲載した。ここでは、長年の知己である連邦環境省元廃棄物法部長のフォン・ケラー氏のご協力を仰いだ。昨年5月に日本からのエントゾルガ視察団のために氏が講演された内容を修正、簡略化した。その外、編訳者が、過去、月刊廃棄物に発表した循環経済・廃棄物法と改正包装政令を全面的に修正し、他の政令(案)とともに第二部に採用した。その外、「編訳者のことば」に引き続いて、「循環経済・廃棄物法への道と法の運用実態」について概要することにした。ここでは、同意を得て、主に、ベルリンのErich-Schmit社発行のケラー氏による著書と、本報告書、ENTSORGA98〔ケルンの廃棄物メッセ〕やIFTA99〔ミュンヘンの国際環境メッセ99〕等の催物、数回に及ぶ新聞取材の協力の際に得られた最新の情報を基礎に内容をまとめ紹介した。
 ここで、この調査報告の委託者である「フリードリッヒ・エーベルト財団」について簡単に紹介しておきたい。この財団は、初代の社会民主党首で、ワイマール時代に最初に民主的に選挙された大統領であるエーベルト氏の政治的遺産として1925年に設立され、1933年にナチにより解散させられたが、戦後1947年に再設立された。政治教育、国際間の協力、シンクタンクとしてリサーチを行い、セミナーやシンポジウム等を開催、多くの奨学金を支給している。世界の76ヵ国に事務所を持ち、総職員数は、690名に及び、本部はボンにある。奨学金受給者は、1993年には、総数2708名を数え、年間予算は、2億1,000ドイツマルクに達する。
 財団内には、環境テーマに関し、フォーラム「エコロジー的市場経済」があり、環境保護、循環型経済の確立に関し、数々の提言や意見の表明を行っている。廃棄物法に関しては、先行報告書として、「エコロジー的市場経済‐廃棄物管理から物流管理」が刊行され、当時施行が迫っていた循環経済・廃棄物法について、分析や予測を行い、テーゼを立てた。今回の報告書は、法施行後に運用上発生した欠陥や成果等を分析し、当時の予測を実証しようとするものである。従って、テーゼに回答するという形を採っている。
 次に、調査員諸氏について経歴を記す。
 シュパンゲンベルク氏は、ケルン、エッセン大学で環境科学を専攻され、社会民主党選出連邦議員(複数)の助手を経て、幾つかの大学及び高等工業専門学校で講師を経験され、ヨーロッパ環境政策研究所における研究員の後、1992年以来ヴッパタール気候・環境・エネルギー研究所の主任研究員をされている。また、マテリアルフロー及び構造変革部門のサステイナブル社会構築プログラム委員会の委員長である。
 フェアハイエン氏は、ハンブルク、オスロにて法律学を専攻し、ハンブルク大学環境法研究室で従事した後、1996年以来ヴッパタール気候・環境・エネルギー研究所とロンドン大学「国際環境法・発展基金」の研究員である。ヨーロッパ、国際環境法、気候保全法と廃棄物法を主な専門分野とする。
 シュトリヴスキー氏は、ダブリンで活動後、ドルトムント大学で化学工学専攻。ブッパタール気候・環境・エネルギー研究所の奨学生となり、1998年以来アーヘンエ科大学(RWTH)固形廃棄物プロセス・リサイクリング研究所の研究員である。
 第二部の資料編で協力を仰いだ「連邦環境・自然保護・原子炉安全省」のフォン・ケラー博士は、司法試補後、上級公務員の職に登用され、内務省環境保全局を経て、1980年代に設置された連邦環境省で長年廃棄物管理の職責にあり、循環経済・廃棄物法を含む多くの廃棄物関連法令の作案に関与され、数年前まで廃棄物法部長の要職に就かれていた。わが国からの訪問者に頻繁に応対された親日家である。1994年10月5日に財団法人クリーン・ジャパンセンターが主催した「国際リサイクルシンポジウム」で講演され、わが国でも馴染みが深い。つい最近まで連邦環境省にて化学物質問題を担当されていたが、環境省から退職された。今も廃棄物法の専門家である。
 今回、編訳者が昨年私訳していた氏の講演草稿の転用について承諾を受けた。ただし、この草稿は、同意の下に、短縮、修正し、一部内容を最近の動向に合わせた。この加筆・修正の責任は、編訳者にある。氏の好意に深く感謝の意を申し上げたい。そもそも制度や言語文化が全く異なる国の書物を邦訳することは冒険である。廃棄物法制度もその例外ではない。ごみ、廃棄物の問題も底流には、その国の生活や文化の土壌が絡み合っている。
しかし敢えて試みた。専門用語については、わが国の廃棄物法やリサイクル用語を参考にしつつも、ある程度独自の用語を使い、訳した。中でも「処理」と訳したドイツ語のEntsorgungは、Versorgung(市場への製品の供給)に対する造語であり、現行法では「利用及び処分」と定義されるが、市場に供給した製品について事業者が最後まで責任を負うべきとする意味合いも含まれている。廃棄物概念の中心要素である「捨てる」を「廃棄する」とも訳されているが、当初編訳者が用いた用語をそのまま使うことにする。また、事業者責任として、法第22条以下で定められた「製品責任」の訳語として、PL法にいう「製造物責任」と区別するため、「月刊廃棄物」では、当初「生産物責任」と訳していたが、織朱美氏が「製品責任」という用語を用いられているので、検討の上で、それを採用させて頂いた。意味は製品が生まれてから市場へ経て、消費者が使用した後、事業者が引き取り、再利用や再使用を行い、最後に残った「処分廃棄物」を環境と調和する、公共の福祉に適合した処分を行うべきものとする事業者の責任、「揺りかごから墓場まで」、すなわち、製品の全過程に係る責任を負う意味と理解した。わが国では拡大生産者責任という用語が用いられるが、ドイツではほとんど耳にしない。トッパー元環境大臣は“広範な製品責任”と呼んだ。他にも訳し難い言葉が多々ある。翻訳上の問題及び用語については、月刊廃棄物1995年8月号67頁と10月号99頁以下に編訳者が説明を試みている。
 訳文に関しては、原文に忠実に、かつ、意味が通じるように、ある程度意訳を心掛けたが、自身の悪文はいたしがたない。青年の頃から27年以上も外国に住み続け母国語をなおざりにしたツケであろう。ご理解を乞う。また、編訳者の誤解や思い違いがあるかもしれない。訳文、訳語はこうでなければならないというものではなく、一つの試訳である。ご好意あるご意見とご提案には感謝申し上げる。なお、訳注ないし編訳者が補充したものに
は括弧内で※を付した。さらに、原語で単に多く「連邦政府」となっているのを、旧政権と現政権を区別できるように、明確にした。これは、翻訳者の加筆であるが、本報告書が旧政権の“廃棄物政策への批判的分析と現政権への提言”という側面を持つので、読者に分かり易いようにしたものである。
 最後に、「フリードリッヒ・エーベルト財団」広報部長のアルブレヒト・コシュツケ氏に、本報告書の翻訳出版に同意して頂いたことに対し、心から感謝申し上げたい。なお、編訳者の希望に応じて、アクチュアル性の高い本書の刊行を速やかに実現されたエヌ・ティー・エス社社長吉田隆氏と、編集部の伊勢直人氏に心からお礼を申し上げる。価値ある情報も時期を逸すれば無価値の「処分廃棄物」となるからである。
1999年10月、ミュンヘンにて。  中曽利雄
『環境先進国ドイツ 循環経済・廃棄物法の実態報告』

ローダ・フェアハイエン、ヨッハイム・H・シュパンゲンベルク報告
Dr.ヘニング・フォン・ケラー協力  中曽利雄 総編訳
 本書では、ドイツの廃棄物問題をテーマに最新の法令を収め、同国の現状を詳細に報告している。ドイツは、環境先進国のイメージが強いけれども、現実には、循環経済への道が平坦ではない現実を指摘するなど広い視野から複眼的に長所・短所を明らかにしている。同国の循環経済・廃棄物法は1994年10月に公布、1996年10月に施行され、すでに3年経過している。循環型社会の実現に向けた、理想的な法律として日本の法改正にも影響を与えてきた。しかし、法律の正確な内容と実際の運用上の問題はあまり知られていない。本書では、循環経済・廃棄物法の成立過程、沿革、法改正の足跡と法の運用の実態の概要がまとめられている。第1部では、フリードリッヒ・エーベルト財団による「循環経済の実際」と遷した循環経済・廃棄物法の成果と新政権への提言が報告されている。同財団は、現与党の社会民主党系であり、本書でもこれまでの法制に懐疑的な見方を示している。第2部では、資料編として新廃棄物法制度の概要と最新主要法令がまとめられている。ドイツの循環経済・廃棄物法の現状を知るには最適の1冊といえる。
(INDUST No.149 2000年3月掲載)
「環境先進国ドイツ循環経済・廃棄物法の実態報告」

中曽利雄 総編訳  口ーダ・フェアハイ工ン報告
ヨッハイム・H.シュパンケンベルク、Dr.ヘニンヴ・フォン・ケラー協力
 ドイツの循環経済・廃棄物法は一九九四年十月に公布、一九九六年十月に施行され、すでに二年を経過した。循環型経済、社会の実現に向けた「理想的な」法律として、日本の法改正にも影響を与えてきた。しかし、法律の正確な内容と、実際の運用上の問題はあまり知られていない。現実にはいろいろな問題を抱えているようだ。ドイツに在住し、本誌にも循環経済・廃棄物法の全訳と成立経緯などを長年に渡りリポートしてこられた中曽氏が、多くの資料を翻訳整理し、法律の実態を浮かび上がらせたのが本書である。
 冒頭で循環経済・廃棄物法の成立過程、沿革、法改正の足跡と法の運用実態の概要がまとめられている。続いて第一部ではフリードリッヒ・エーベルト財団による「循環経済の実際」と題した循環経済・廃棄物法の成果と、新政権への提言が報告されている。第二部で資料編として新廃棄物法制度の概要と最新主要法令がまとめられている。長年に渡る著者の努力には本当に敬服する。ドイツの循環経済・廃棄物法の現状を知るには最適の一冊と言え、今後の日本の廃棄物行政にも大変参考になろう。
(月刊廃棄物 2000年2月掲載)
「循環軽済・廃棄物法の実態報告」

総編訳 中曽 利雄  発行=エヌ・ティー・エス
 本書はドイツの廃棄物問題をテーマに最新の法令を収め、同国の現状を詳細に報告する。ドイツは環境先進国のイメージが強いが、現実には循環経済への道が平坦ではない現実を指摘するなど、広い視野から複眼的に長所・短所を明らかにしている。
 中曽利雄氏が法制の歩みと現状の課題を報告、F・エーベルト財団が現状分析と政策提言を行うほか、廃棄物処理の新法制、最新法令を収録する。
 中曽氏は現状の問題点として▽「利用廃棄物」と「処分廃棄物」の区分が不明確で、本来「処分廃棄物」になるべき大量の廃棄物が「利用廃棄物」扱いされて不適正に処理されている▽このため「処分廃棄物」が、急減″し、「処分廃棄物」用の焼却施設などで操業コストが急騰、結果的に市民の負担が増大している―などを挙げる。エーベルト財団は現与党の社会民主党系であり、本書でもこれまでの法制に懐疑的な見方を示す。一連の政令は使用回避の効果を挙げておらず、産業界にリサイクル・長寿命設計を促していないと批判する。また、処理事業を民営化する場合には、行政の監視強化が必要になるとして、民営化の絶対視は避けるベきとの考えを示唆している。
(週間廃棄物新聞掲載)
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