まえがき

 シックハウス,シックスクール,化学物質過敏症という用語が定着し,一般の人々にも室内の空気がいかに健康にとって大切であるかということが理解されるようになってきました。 1 日の疲れを癒し,明日への活力を満たすべき住まいにおいて,あるいは,明日を担う貴重な若者を育てる教育施設において,わが国の経済活動・社会活動を支える職域において,空気の汚染に起因する症候群や深刻な健康不具合が報告されています。2004年 6 月 1 日にシックハウス症候群は疾患として公に認められるようになりましたが,化学物質過敏症についてはいまだ病名としては認められていません。しかし,これらの空気質に起因する健康不具合を訴える人は現に存在します。また,これからも存在し続けることは容易に想像できます。ここ数年,建築,材料,医学分野などを網羅した産学官の精力的な取り組みによって,シックハウス症候群や化学物質過敏症に関する知見が蓄積され,この疾患に対する理解も増え,また診断・治療,対応策も充実してきています。
 本書はこれまで明らかにされている知見や対応策について,実際に関連の実験を行い,診療を行い,建設を手がけている現役で活躍している方々に執筆をお願いし,一般の方々はもちろん,専門家の人々にも有効にお使いいただけるように編集されています。第 1 章ではわが国におけるシックハウスの現状と課題,第 2 章では各国の取り組みの状況を述べ,この問題がわが国だけの問題ではないこと,第 3 章ではこの問題の解決に直接関連する建築およびその材料・製品分野の産業における対応策と開発動向,第 4 章では室内空気質,材料の客観的な評価に必須の測定・試験方法,第 5 章ではシックハウスあるいは化学物質過敏症の診療の症例をその発生要因および治療まで含めて,第 6 章では最近きわめて大きな問題となっているシックスクールについてのトピック,第 7 章では化学物質に対応して建てられた病院および住宅について記述しています。
 内容は狭い意味でのシックハウス症候群の範囲を逸脱しているところもありますが,いずれも化学物質,特に揮発性有機化合物が関与しており,密接に関連しているものです。現代の人間はその大半を屋内で過ごしています。また,生きていくためには呼吸を止めるわけにはいきません。飲食物や衣類と違って意識されずに空気中の汚染物質が直接肺に達します。その影響は計り知れないものがあります。まだまだ不十分な点がありますが,本書がよりよき空気環境の確保に役立ち健康的な生活に寄与する実用書としてお役に立てることを切に希望するものであります。
 最後にお忙しいなか快く執筆をお引き受けいただいた各先生方に,心より御礼申し上げます。
2005年5月 監修者
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