メタンと二酸化炭素  冊子+CDセット 〜その触媒的化学変換技術の現状と展望〜
= 刊行にあたって =

 世界はカーボンニュートラル社会(炭素循環社会)を実現させる方向へと鍵を切った。容易ならざる道であるが、人類社会のあるべき方向であることに間違いないので、あらゆる方策が取られることになろう。しかし、振り返って見ると、しばらく続いた石炭の時代から現在の石油の時代に移り、同時に天然ガスの利用が広がってきた時代の流れの中で、一足飛びにこれらの炭素資源を一切使わない社会を実現しようとすることはさまざまな軋みを経済や社会に生み出しかねない。カーボンニュートラル社会のなかで成立しているべきであろうとする理想の科学技術があっても、それを実現するには相当の時間がかかるので、これに向け一刻も早く加速度的に技術開発を進めることは不可欠であるが、同時に成立するまでの時間の中で経済や社会に軋みを生まないよう、より現実的に段階的に脱炭素社会に移行するための技術の導入も重要である。

 理想とする科学技術とは、再生可能エネルギー生産を基盤とし、水素と二酸化炭素を基礎化学物質としたエネルギーと化学物質の生産体系の構築のための技術であり、移行のための科学技術とは、石油に代わり水素比率が最も高い炭素資源であるメタンを最大限に活用し、従来よりも二酸化炭素排出を少なくエネルギー生産でき、またエネルギー消費を少なく化学物質を生産する技術である。このメタンと二酸化炭素は炭素1個の化合物という共通性の中にありながら、全く異なる化学転換技術を必要とする。例えば、メタンの反応ではエネルギー生産を伴えるが、二酸化炭素ではエネルギー投入が不可欠である。しかし、両反応に共通するのは水素が関係する、介在することであり、また両者の利用が成立する上で高度な触媒の登場が鍵になることである。メタンと二酸化炭素は今、せめぎ合い、また補完し合うような利用が考えられ、そのような中で触媒技術の進歩が進んでいると言える。本書はその現状と展望を監修した。

 メタンの触媒的化学変換技術の現状については主にJST「革新的触媒」プロジェクトのCREST研究とさきがけ研究者から執筆いただいた。一方、二酸化炭素の触媒的化学変換技術の現状では、新しい炭素循環体制を提示できるか、という視点で戦略的な取り組みを中心に第一線の研究者に執筆いただいた。そして、座談会形式でメタンと二酸化炭素の技術の進むべき道を展望したものをまとめた。本書がカーボンニュートラル社会の実現にむけ、今何をなすべきで、何を成さざるべきかを考え、新しい触媒技術を構築する一助になると確信する。

 本書が刊行できたことは多くの執筆者のご尽力によるものであり、ここに心から感謝の意を評したい。また同じく、編集作業に携わった関係者の皆さんに感謝申し上げる。

2023年1月吉日 神奈川大学教授 工学博士 上田 渉
メタンと二酸化炭素  冊子+CDセット 
〜その触媒的化学変換技術の現状と展望〜
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