まえがき

 高分子材料は、現在の社会において欠かすことのできない素材である。このような素材が世に現れたのは、石油化学の勃興と期を同じくしてまだ半世紀あまり前にすぎない。この間、高分子合成用の、例えば立体視則性重合触媒の開発やその改良が行われ、高分子合成化学の発展があったのは勿論のことである。しかし合成された高分子を材料として使用できるようにしたのは、高分子用添加剤の開発や高分子材料の加工技術の進歩があったからに他ならない。私は、このような理由で高分子合成化学、添加剤化学、及び加工技術を高分子材料の三本柱と認識している。高分子の添加剤は、高分子の長所を伸ばし、欠点をなくし、新しい機能を与える役割をし、過酷な条件の加工技術を可能にするなどして、高分子材料の使用を必要としている現在の社会において非常に重要な役割を果たしている。
 しかし「添加剤」という一般的な響きは、そのような重要さを感じさせない。国語辞典によれば「添加」とは付け加えるとか、添えるとかの意味が書かれている。食品に使われるグルタミン酸ナトリウム、スパイスなどは食品添加剤である。これは添加すると食物の味をよくし、食欲をそそらせるなどの効果はあるが、それが存在しないからと言っても食べられない訳ではなく、結構おいしく味わえる場合も多い。ところが高分子添加剤はそのような働きの範疇に入るものもあるが、安定剤と称されるものは上述したように高分子材料に不可欠のものであり、これなくしては高分子を材料として使用不能にしてしまうものを多く含む。これを、一般的な意味での添加剤という言葉で理解されてしまうのは悲しいことである。
 このようなことを言っても、この業界に住む人には何のことかピンとこないかもしれない。しかし我々教師は、高分子化学の話をすると学生が興味を示すのに対して、添加剤では一向に乗ってこないことを経験している。このような分野にも学生が目を向けてくれないことには、人集めにも事欠くようになりはしないか、心配である。またこんなことが大学等で研究者の少ないことにつながっていないだろうか。私は、そのようなこともあって、高分子添加剤にもっと市民権を与えるべく高分子機能化剤としてはどうかと考えている。これには高分子機能維持剤、高分子表面機能付与剤、高分子バルク機能付与剤などが含まれる。
 本書は、そんな筆者の願いが込められた名前になっている。ただ名前だけかというとそうではない。今までと違った姿勢で本書が書かれているのは言うまでもない。姿勢が違うと、中身が生き生きと見えるのは、私だけであろうか。一読願えればと思う。
2000年7月  工学院大学 大勝靖一
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