発刊にあたって

 21世紀を迎えた現在,われわれを取り巻く社会・経済状況は大きな変化を見せはじめている。地球規模で環境,資源,エネルギー,食糧,安全,保健,情報通信といった諸問題が急速に顕在化する中で,全地球的視野に立って人類,社会の持続的な発展をいかに可能とするかが問われている。
 材料の研究開発においても,単に高性能,高機能,経済性のある材料を追求するのみでなく,材料の生産から利用・リサイクルまでをも含めた総合的な観点から環境に与える負荷が少ない材料が求められている。
 本書のカバーするポリマーアロイ,ブレンド,コンポジット(高分子ABC)の発展は目覚ましく,その生産量はますます増大するだけでなく,高分子ABCの科学技術を応用した分野も拡大しつつある。上記の諸問題に材料面で対応しようとすれば,必ずといってよいほどいろいろな場面で本書の内容が役立つであろう。これは,高分子ABCの科学技術が,もともとニーズ対応型にできているためである。
 このような状況のため,ポリマーアロイ,ブレンドに関する成書はある程度あったが,コンポジットまでを含め,高分子ABCの調製,加工,構造と物性,応用,機能,評価法などを総括的に網羅した書物はなかった。本書発刊の目的は,これまでに蓄積されている膨大ではあるが系統的ではない高分子ABCに関する科学と技術の情報を総括し,知識の構造化を進め,これからも予想される高分子ABCの創造的研究開発を促進するための一助とすることにある。この目的のため,1997年の暮から(社)高分子学会のポリマーアロイ,ブレンド,コンポジット研究会(高分子ABC研究会)の主要メンバーを中心に編集委員会を組織し,2001年1月の発刊を目指して,企画内容の検討を繰り返してきた。これは,高分子ABCの分野が広く,しかも発展しつつあり,21世紀においても十分活用できる本を上梓しようとしたためである。高分子ABCに関するこの種の書物は世界的にも初めての企画であり,高分子ABCの研究開発が大学,企業,国公立研究所で活発に進められているわが国でこそ初めて実現できたものと自負している。本書は高分子ABCに直接携わっておられる方々のみならず,他分野の研究者,技術者,これからの材料研究に関心を持っておられる方々にとっても必ず役立つものと信じている。
 本書出版にあたり,国内外で重要な役割を演じたり,その分野の世界的パイオニアと考えられている超一流の研究者,技術者に執筆をお願いすることができた。各執筆者は,それぞれの分野の文字通り第一人者のため,きわめて多忙であったにもかかわらず,快くご執筆いただいたことに対して,編集代表者としてあらためて謝意を表したい。
 さらに,本文案の検討中に,2000年度のノーベル化学賞が日本の白川英樹博士の導電性高分子の研究に与えられるというニュースが流れた。日本の高分子科学の世界に対する貢献が認められたものとして心からお祝いを申し上げたい。導電性高分子を対象としたABCの研究開発もますます活発化すると予想される。
 なお,本書は松永孜氏の提案がきっかけとなって生まれたものである。本書を完成にこぎ着けることができたのは,同氏に加え,編集幹事諸氏の貢献,株式会社エヌ・ティー・エスの吉田隆氏,松風まさみ氏,柴田敏子氏の熱意とご尽力があったからこそである。あわせて謝意を表したい。
2001年1月  編集代表 西  敏夫
伊澤 模一
秋山 三郎
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