導電性高分子の開発の歴史は大別して3期に分けられる。第T期にはドープした金属的な高い電気伝導度を持った導電性高分子が,電解コンデンサの陰極材料や帯電防止剤として実用化された。また,電気伝導度が半導体から金属に遷移する機構についての解明が進んだ。次の第U期では,キャリア担体としての機能に注目が集まり,FET,ELおよび太陽電池の実用化を目指した開発が世界的規模で行われた。FETおよびELの実用化は足踏みはしているものの,太陽電池に関しては,変換効率10%を越え,実用化の目安となる15%が射程距離に入るまでに向上した。変換効率の向上にはドナー・アクセプター型共重合体(D・A共重合体)の開発や導電性高分子の高次構造制御技術の進展が大きく寄与している。また,この期には印刷法でデバイスを製造するプリテッドエレクトロニクスが注目を集め,導電性高分子も主要な材料として検討されている。
 現在は,第T期および第U期の成果をベースに,導電性高分子の開発が新たな飛躍の時代に入った第V期と捉えることが出来る。従来より1桁以上も向上した機能を持った導電性高分子が数多く開発され,新たな用途の開発が始まっている。具体的には@3,000 S/cmを超える高導電性PEDOT:PSS,A10 cm2/s・V以上の高移動度p型導電性高分子,B空気中での安定性が良好で高い移動度を示すn型導電性高分子,CZTが0.25と高い熱電変換効率を持った導電性高分子などである。また,熱可塑性樹脂や無機材料との複合化による高性能化も進んで,Liイオン電池やスーパーキャパシタの電極のサイクル寿命の大幅な改善が図られている。さらに,導電性高分子の柔軟性と生体適合性を活かして医療分野への応用も活発化してきている。
 本書では導電性高分子の新たな展開が始まっている技術開発状況を中心に,新展開のベースとなっている第U期の開発も含めて紹介している。また,用途によっては導電性高分子と競合する共役系低分子有機化合物,カーボンナノチューブおよびグラフェンなどとの優劣の比較も行った。さらに,本書では詳細に紹介しきれなかった用途に関しては,関連文献を記載して読者の便を図った。最終章では導電性高分子の最近の市場動向についてまとめた。
 本書が有機エレクトロニクスの開発に従事あるいは興味を持っておられる技術者および研究者の方々の有益な情報源となればこの上ない喜びである。
著者:小林技術士事務所 小林征男(2014年6月)

 
導電性高分子の最新開発・市場動向と技術ノウハウ集 Copyright (C) 2014 NTS Inc. All right reserved.