= 刊行にあたって =

 炭素繊維(CF)市場は、高い技術開発力を有する日本や欧米を中心とする先進国メーカーが参入・撤退・統合を繰り返しながら、長らく市場の成長をけん引してきた。現在は、日系3社(東レ、三菱レイヨン、東邦テナックス)がおよそ60%のシェアを有するに至っている。
 世界市場を見ると、近年では市場参入を目指している中国の企業が非常に多く、国内の総生産能力は日本や欧米と比較にならないほど大きな規模になっている。既に年間の生産能力は、瀋陽中恒炭素繊維産業集団が5,000トン、中国中鋼集団が5,000トン、中複神鷹炭素繊維が3,500トン、威海拓展繊維が2,150トンの設備を有し、このほかにも数百トンレベルのメーカーが多数存在する。
 しかし、現状では実生産量は公称能力に比べて極わずかな状態と見られる。ただ、繊維の品質や設備の生産性などに課題はあるものの、徐々に解決していくものと予想される。
 応用分野別でみると、航空機用途では2020年以降、B777Xなどの次世代機体にCFの使用量を増やした機体の生産が開始され、大幅な需要増が期待される。その中でボーイングとエアバスが中国市場の取り込みを加速させている。ボーイングはB787の構造部位の1割を成都航空機工業など中国の航空機メーカーに発注している。エアバスは中国企業と合弁で、天津に中国国内向A320の最終組立工場を建設している。
 自動車用途も環境規制の強化により、自動車メーカーのCFに対する関心の高まりが進み、CFメーカーと日本や欧米の自動車メーカーの共同体制で、CFRP部品の開発、量産化が進められるようになった。
 電気自動車やプラグインハイブリッド車の市場投入が活発になり、ピックアップトラックや高級セダンなどの重量級モデルでも軽量化目的の採用が想定されCFRPの採用が増加していくと予測される。
 更に、新たな市場として浮上してきた用途には、風力発電、耐圧容器、燃料電池などエネルギー関連技術分野などがある。これら産業用途を中心に航空機用途、スポーツ・レジャー用途での確実な伸びも含めて、CFの今後の本格需要が起きることが期待されている。
 本レポートでは、炭素繊維の価格推移、PAN系・ピッチ系炭素繊維の市場、CFRPの需要動向、世界の航空機、及び自動車用CFRPの市場動向などを調査した。巻末には、中間基材の製造技術を保有する企業、プリプレグ製造技術を保有する企業、CFRPの成形技術を保有している企業などを一覧表でまとめた。
 このように炭素繊維・製品市場の全容を分析、詳述した本レポートが、関連する炭素繊維メーカー、樹脂メーカー、中間材加工メーカーをはじめ炭素繊維の利用を考えるユーザーの方々にとって貴重な情報源となることを確信し、ご購読をお勧めする。
世界の炭素繊維・応用製品の市場実態と展望 2017 Copyright (C) 2016 NTS Inc. All right reserved.