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発刊のことば

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刺激応答性高分子に魅せられて約30年が過ぎた。筆者が研究というものに少し足を踏み入れた学生時代には、
ゲルの体積相転移の発見から約10年が経ち、その普遍性が一般的に知られるようになっていた。
学術的な研究は少し落ち着いていたが、刺激応答性ゲルとしてドラッグデリバリーシステムやセンサーなどへの
応用の可能性が示され、医療分野を中心として応用研究も始められた時期であった。刺激応答性高分子という
キーワードがトレンドとなり、研究を始めたばかりの筆者にはとても魅力的な研究対象であった。一方で、
刺激応答性高分子の代表である温度応答性高分子としてはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)が中心であり、
当時は刺激応答性高分子の種類もまだ限られていた。そこで、PNIPAAm 以外で温度応答性高分子を設計したいと考え、
親水性の異なるモノマーから共重合体ゲルを合成し、その組み合わせによって温度応答性が示されることを報告した。
残念ながら、その論文の引用数は多くはないが、刺激応答性高分子に関する筆者の研究の始まりであった。
それから約30年が経過し、当時では予想もできなかったような多彩な刺激応答性高分子が報告されている。
温度刺激1つをとっても、今では分子設計によってさまざまな温度応答性高分子を合成することができる。
さらに刺激応答性高分子の応用研究も急激に広がり、医療、環境、エネルギー、ナノテクなど枚挙に暇がない。
刺激応答性高分子を利用した細胞制御や高分子ミセルなどは、その特徴を活かせたもっとも成功した例であろう。
このような刺激応答性高分子の発展には、精密重合や分析機器の進歩も大きく貢献してきた。
最近のトレンドとして自己修復材料に関する研究が世界中で活発化しているが、
自ら傷を修復する人工材料の出現は誰も想像できなかったであろう。刺激応答性高分子を利用した
分子ロボティクスやマイクロデバイスなど、化学とはまったく異なる他分野の研究者も刺激応答性高分子に
魅せられて参入している。刺激応答性を示す低分子や材料システムも多数報告されており、
これらも刺激応答性高分子として広く解釈して、本書では可能な限り網羅するように努めた。
刺激応答性高分子は、身近な材料やシステムへの応用はもちろん、医療や環境、エネルギー、ナノテク、
情報などの幅広い領域での最先端技術材料としても力を発揮し、新しい科学と技術の誕生に大きな役割を果たすはずである。
本書では、刺激応答性高分子の研究において第一線で活躍されている研究者に関連分野の背景から最新の
研究動向まで執筆して頂いている。執筆項目は12章(序論含)、95項目に及び、執筆者は158名に達している。
刺激応答性高分子に関する書籍では最大規模となっている。本書に目を通して頂ければ、
刺激応答性高分子の魅力を堪能でき、そのポテンシャルの高さに今後の発展を期待して頂けると確信している。
日本には刺激応答性高分子研究のパイオニアである研究者が揃っており、今なおこの分野を牽引している。
本書は、そのような研究者が一斉に顔を揃えているハンドブックであり、この分野の研究者一覧としての
重要な役割も果たしている。すでに刺激応答性高分子の研究に携わっている研究者だけではなく、
他分野から新たに参入しようとする研究者にもお役に立つはずである。本書が、
刺激応答性高分子の科学と技術の発展に貢献することを期待したい。
本書は、多数の著者のご協力によって完成に至ることができた。各執筆者はきわめて多忙であったにもかかわらず、
快く執筆していただいたことに対して、監修者として心から御礼申し上げたい。また、
本書の企画提案から出版に至るまで終始、熱意を持ってご協力下さった(株)エヌ・ティー・エスの吉田隆代表取締役と関博実氏、
そして企画グループの方々に深謝したい。
2018年12月
宮田 隆志
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刺激応答性高分子ハンドブック |
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