延伸による高分子の構造と物性制御
= 趣旨 =

延伸は,高分子材料の製品化において極めて重要なプロセスである。高分子のもつ特徴の一つが異方性であり,延伸操作は異方性を制御する技術として位置づけられる。繊維・フィルムの製造を中心に延伸は幅広く行われているが,延伸操作の中でどのように異方性の構造が形成され,これがどのように製品の性質に結びつくかについては,未だに解明されていない部分が多い。

 本書は,高分子の延伸に関わる最新の研究事例を集めたものであり,延伸の基礎科学から工業プロセスに至る幅広い内容が含まれている。高分子の基礎科学を扱う研究者は,生産現場で高分子が受ける温度・変形・応力などの履歴に関わる定量的な理解が必要であり,一方,工業プロセスを扱う研究者は,プロセス中の高分子の振舞いについて,経験と勘に頼るのではなく,高分子の基礎科学的観点から理解を深める必要がある。本書が両者の視点を繋げる役割を担うことができればと願っている。

               <中 略>

 本書の執筆を依頼するに当たり,各章の著者には大枠のテーマのみを伝え,内容の詳細については,文章の長さを含めなるべく自由に執筆を進めて頂いた。冒頭に述べた通り,延伸に関わる理解が十分には進展していない状況下で,新規な計測法を駆使した取り組み,新しい材料への取り組みなどで新鮮な知見が蓄積されつつある。多くの章で充実した内容とともに力の籠ったイントロダクションを提供されているのは,各々の著者の延伸に対する思い入れの深さを物語っている。一方,繊維,フィルム,ボトルの製造に関わり,基礎実験,実際の製造プロセスの双方について,最先端の情報,現場でしか分からない生々しい情報が提供されている点も本書の大きな特徴になったと考えている。本書が延伸に関わる研究・開発の進展に少しでも貢献できれば幸いである。

東京工業大学 鞠谷 雄士(監修者「まえがき」より抜粋)
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