まえがき

 我々が、環境問題解決へ向けた製造業のあり方として「インバース・マニュファクチャリング」の考え方を提唱してから10年が過ぎようとしている。その間、環境問題の根本原因として大量生産・大量消費・大量廃棄問題が各方面で議論され、循環型社会の考え方が着実に社会に定着しつつある。一方で、現在定着しつつある循環型社会の姿は、種々の法規制が示すように結果として「大量生産+大量リサイクル」の形に落ち着いてしまうのではないかという危機感がある。インバース・マニュファクチャリングの主張は、狭義のリサイクルを唯一の循環経路と考えるのではなく、製品ライフサイクル全体を眺めたときに、それぞれに適切な循環経路を、リサイクルを含めてより合理的に決定できる設計・生産技術を開発しようということであり、また、循環生産における付加価値の向上や新たなサービス提供手段の開発というようなビジネスチャンス拡大の側面をも同時に不可分なものとして検討しようということであった。
 本書は以下のように構成した。第1部は、インバース・マニュファクチャリングの基本的な考え方を環境問題の中での位置づけ、社会環境における位置づけを含めて整理した。ここで整理された基本概念を実現するための方法論を展開するのが第2部である。インバース・マニュファクチャリングに必要な基本的な技術の視点は網羅するように心がけたが、特に第4章「設計技術」は、ある程度充分な整理が行えたと考えている。第3部は製造業の現場で実践されているインバース・マニュファクチャリングに向けた取り組み事例を紹介する。ここでは網羅性は必ずしも充分でないが、インバース・マニュファクチャリングという考え方が、ときに真正面から、ときに形を変え、ものづくりの場に浸透しつつある姿を見ることができよう。
 本書の読者は、ユーザを含めてものづくりに関わる全ての人々であり、全ての読者が循環型社会に向けたものづくりのあり方のヒントを必ず得ることができると確信している。
 本書は、これまで大学や企業で蓄積されてきたインバース・マニュファクチャリングの技術や知識を、21世紀の産業構造を意識しながら、改めて体系立てようとする試みである。そしてこの試みは、この新しい分野に一つのランドマークを記すことができたという意味で半ば成功したと自負している。
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