CFRPリサイクル・再利用の最新動向
はじめに
 軽くて丈夫な炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP)は,高価であっても最高度のパフォーマンスが要求される航空宇宙産業,F1レース,ヨットやスキー等の競技用スポーツ分野で使用されてきた。現在,温室効果ガスの排出量削減が最も重要な地球環境の問題となっており,CFRPの優れた特性を活かして軽量で省エネルギーな交通機関や超大型の風力発電施設への応用が検討されている。

 一方,炭素繊維は2,000〜3,000℃の高温で炭素を黒鉛化させるため,製造時に膨大なエネルギーが消費される。また炭素繊維は難燃性で,工程廃材や使用済み製品を適正処理することは困難で大部分が埋め立て処理されている。CFRPを一般工業製品に広く利用するためには,製造エネルギーを大幅に削減するとともに,製品の長寿命化,修理やメンテナンスのしやすさが不可欠である。また工程廃材や使用済み製品をリサイクルすることにより,CFRP のライフサイクル全体を通しての環境負荷を低減することも求められている。

 これまでCFRPは物性向上や製造エネルギーの削減に主眼が置かれていた。本書は,ゼロカーボンを目指す持続可能な社会を実現するために注目されているCFRPのリサイクル技術に特化し,日本で活躍されている第一線の研究者や技術者に執筆を依頼した。持続可能な社会では,すべての素材を循環利用することが原則であり,循環利用できない素材は市場から駆逐されると予想されている。素材として優れた性能を有するCFRPを今後も使い続けるためにも,本書がリサイクル技術の発展に寄与できれば幸いである。

2023年10月
早稲田大学 加茂 徹
 
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