車載機器の接続信頼性と向上技術
= 趣旨 =

 自動車業界は,「100 年に一度の大変革期」と言われ,車両生産販売だけでは生き残っていけないなど,関係者は,非常な危機感をもっている。とくにIoT との結びつきの中で,MaaSという移動サービスの一手段として自動車が位置付けられようとしている。そのため,自動車の使い方,使われ方が大きく変わるという認識である。このモビリティ革命を表す,ダイムラーが提唱した「CASE(Connected, Autonomous, Shared& Service, Electric)」により,自動車もその付加価値が大きく変わろうとしている。20 世紀末から加速し始めた電動化,車両の安全性を高めるための技術として始まった自動運転車両開発が,いよいよ21 世紀に入って実用化されつつある。さらには,自動運転の実用化と効率の良いエネルギー利用ならびに移動の実現のために,車外インフラと車両が連携(つながる)することが求められるようになっている。

 本書では,CASEに求められる車両の各種の電子システムを支える電子製品の相互接続に焦点を当てる。電動化ではHEVなのか,EVなのかの議論はあるが当面HEVとすれば,内燃機関とモータの相互の出力動力の最適制御が必要であり,相互の高速な情報のやり取りを必要とする。さらには,自動運転の実現ともなれば,さらに複数の相互システムが情報共有連携する必要がある。高速,大容量データを扱うことができる車内ネットワークが求められ,制御系では現在CANが主流であるが,さらなる高速化を目指し車載Ethernet の開発も進んでいる。そもそも,相互の物理的接続は,コネクタという部品が依然として主役であり,その信頼性が車両の信頼性を左右するといっても過言でない。そこで,電子製品の接続という事項に注目して,主にハードウェア的な側面から解説をしていく。第1章では車載信頼性の概要と取組みの考え方を概説する。第2章では高電圧コネクタから,高周波領域までのコネクタに必要とされる基本技術から,接点材料,表面のめっき技術まで最先端の技術を幅広く取り上げた。第3章では,各電子製品内の部品実装(主にはんだ付けを中心とした部品接続)技術に関する,技術と信頼性について検討している。まずは,はんだ付け技術にける信頼性確保のための考え方と評価技術をしっかり理解してほしい。そのうえで,電動化の主役であるインバータに使われる,パワーデバイスの実装技術における高信頼性設計を詳説している。最近の車両使用年数は長期化しており,10年以上使われることが普通となった。車両関連製品は永久に供給責任がある。その中で,電子製品はますます長期寿命を求められており,はんだ接合部の長寿命化も構造設計と工程の実装技術だけではなく,はんだ材料ならびに電子部品を搭載する回路基板材料においても進化し続けており,各材料研究の成果も紹介する。

 間近に迫る,車両の電動化と自動運転社会における,高信頼で自動運転サービスを途切れさせない車両を提供するための基本技術について,本書でまとめたつもりである。接続(コネクタ)も,はんだ付けも古くから採用されている技術でありながら,いまだに車載電子製品の不具合原因の大半を占めている。高信頼性を実現するために,コネクタでは車両の燃費向上のために小型軽量化が求められ,組合せ使用されるハーネスを含めたハーネスシステムとしてとらえる発想も必要である。同様に,はんだ付けもその材料から製造工程を含めた実装システム設計ともいうべき考え方が必要になっている。本書を手にされた皆様の,新しい発想の手助けになれば幸いである。(神谷有弘)
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