行動分析学事典

 「人は,なぜ,そのように行動するのか」 行動分析学とは,この問いを,個人(人を含む動物)と環境との相互作用の観点から分析していく,ユニークな学問体系のことです.20世紀中盤に,米国の心理学者,B.F.スキナーによってその礎が作られ,今も,その知見が累積されつづけています.

 日本行動分析学会は,1980年に「日本行動分析研究会」としてスタートし(その当時の会員数は95名),1983年に学会として第1回年次大会が開催され,その後,国際行動分析学会の日本支部になりました.2015年には一般社団法人となり,2018年現在,会員数は1000名を越える規模となりました.

 その一方で,日本において,これまで行動分析学に関する事典が公刊されたことはありませんでした.しかし,2013年にアメリカ心理学会によるAPAHandbookofBehaviorAnalysisという本格的なハンドブックが公刊され,2015年に公認心理師法が成立し,2017年には同法が施行されることになりました.そこで,一般社団法人日本行動分析学会として,行動分析学に関する正確かつ最新の情報を提供することは,喫緊かつ重大なミッションであると考え,丸善出版より『行動分析学事典』を公刊し,その後,本事典の改訂版を公刊し続けていく,というプロジェクトが,2016年に始動することになりました.

 事典で取り上げる項目を吟味し,その結果,T部(哲学・概念・歴史)に37項目,U部(実験的行動分析)に62項目,V部(応用行動分析)に55項目,W部(行動分析学における実践)に18項目を配置することにしました.同じく2016年に,事典刊行にあわせて,行動分析学用語の整理が必要であることから,総務委員会の下に「用語検討特別委員会」が設置されました.2018年9月までに200語の「行動分析学用語・基本用語(推奨順つき)」がリスト化されました.

 本事典で使用している基本用語は,上記の用語検討特別委員会による用語リストに基本的に依拠しています.しかしながら,従来から使用されてきた用語(訳語)との互換性にも配慮するために「複数の用語を併記する」という記載方法も適宜採用しています.

 行動分析学は,喩えるなら,アントニ・ガウディが基本的な設計をし,その後,紆余曲折を経ながらも,今も建築され続けている「サグラダ・ファミリア教会」と言えるかもしれません.この比喩が許されるならば,この『行動分析学事典』は,さしずめ刊行毎に撮影されるスナップショット(定点観測)といったところでしょうか.おそらく,この初版の執筆者たちが,行動分析学という建築物の完成を目のあたりにすることはないでしょう.しかし,このような一大プロジェクトに微力ながらも参与できたことは,何ものにも代えがたい喜びでした.そして,この事典を手にした方が,「このバトン」を受け取り,次の方に繋いでくださることを切に願っています.

2019年3月
行動分析学事典・編纂特別委員会
編纂委員主幹 武藤 崇
行動分析学事典 Copyright (C) 2019 NTS Inc. All right reserved.