農業経済学事典

序文(一部抜粋)

 本事典の編集に学会事業として取り組んだ日本農業経済学会は、わが国の経済学関連学会の中で最も古い歴史をもつ学会の1つであり、 1世紀近くにわたる活発な学会活動を展開してきている。

(中略)

 本事典は多くの専門分野の研究者が総力を結集し、その先端的な知見をもとに構成・執筆されたものである。 高度な内容でも平明な叙述を旨としつつ、正確かつ最高水準の情報・ 知見を提示する農業経済学分野を包括する事典としてお薦めできる作品に仕上がったと自負している。

(中略)

 研究対象の広がりと総合性、それによる多様な学問的アプローチの必要、私たちの暮らしとの密接かつ直接的な関わり、 地域社会の重要な構成要素でありそこに住む人々の生命を支える安全保障のかなめであることなどの農業の特性が、 以上のような農業経済研究の特徴と近年に至る展開をもたらしているのである。農業経済学の出発点においては、 農村の貧困問題解決が最大の研究課題であったが、グローバル化のもとで農業という産業の生産性向上や競争力向上が課題となってきたことから、 農産物マーケティング論、農業構造論、制度論など本来的な農業経済学領域での研究が専門化、深化してきたことは事実である。 しかし現在、それを超えて、より広範な社会文脈の中で農業と食料生産が再定義されることが課せられている。

 農業経済学領域では固有の研究領域に加え、多面的なアプローチによる現代農業・食料問題の解決に向けた方策が研究されている。 しかし、その一方で、人類の生存基盤の最たる食料生産に関わるという農業のもつ根源性にもかかわらず、 農業生産・食料問題の複雑性のゆえであろうか、身近な問題でありながら農業の現状と実情、変貌の具体的様相、直面する課題とその性質、 課題解決の方向性・展望については、必ずしも正確で体系的な情報が提供されてきたとはいえないようである。私たちが21世紀を生きぬく上で、 子々孫々に豊かで安全な生活基盤・社会を手渡していくため、人類が地球規模で平和で公平・公正・平等な社会を築き上げるための基礎的情報・ 基本知識を提供する上で、本事典がいくらかでも役に立てればというのが、刊行にあたってのささやかな願いと期待である。

2019年6月
『農業経済学事典』編集委員長・前日本農業経済学会会長
  盛田 清秀
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