発刊にあたって

 18世紀の産業革命以来、科学技術の発展に呼応して次々と新しい産業が生まれてきました。とくに20世紀の主要産業は物理・化学を基盤としていましたが、それに加え、伝統的な微生物利用技術も生活に密着していました。さらにいわゆるバイオが表舞台に立ちだしたのは1973年の遺伝子工学誕生以来であるといえるでしょう。一方、20世紀後半からの世界人口の爆発的増加は人類の危機を感じさせるのに十分でした。国連の統計によれば、2000年には60億人に達し、2050年には90億人程度になるものと予想されています。さらに日本では少子化と高齢化という別の問題も浮上しています。21世紀の人類の主要課題である食糧、エネルギー、環境、医療のいずれの課題解決にもバイオテクノロジーが必要であることは論を待ちません。
 また21世紀は“循環”と“共生”を基本概念として世の中が推移していくと思われます。その中にあって物を作りだして生活していくためには、リサイクル可能な物を作り、新物質を合成したならばいかに循環系に導入するかを考えなければならないでしょう。また人口増加による食糧危機に対応するためにも有機質土壌を守っていく必要がありますが、このときも有効微生物の働きが最も重要になるでしょう。このように、各種生物と共生しながらその特殊能力をうまく利用することが、21世紀に求められているのです。
近年「ヒトゲノム解析と創薬」などが流行のようになっていますが、微生物の多様な能力には幅においても深さにおいても大いなるポテンシャルが秘められているのです。微生物に関する従来の知識・技術・実例だけでなく、21世紀に役立つ情報をまとめて「微生物利用の大展開」と題する著作を世に出したいと考えました。編集委員のご努力や各分野の専門家、研究者、実務者など多くの方々に貢献して頂きました。下読みをする段階から、大いなる迫力と最先端の切れ味を感じています。また付録として代謝マップ、系統樹、学名索引を加え、充実を図りました。読者の皆さんにもきっと満足してもらえる内容であろうと自負しています。
2002年7月吉日  監修者 今中 忠行
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