化学物質毒性ハンドブック 臨床編T
監訳者のことば
 本書は2001年に発行された"Clinical Toxicology"の翻訳である。原書の最大の特色は、世界でもっとも詳しく、もっとも新しい臨床中毒学の参考書であるということである。平成11年に刊行した大著Patty' Industrial Hygiene and Toxicologyの翻訳「化学物質毒性ハンドブック」は、化学物質の毒性に関する空前の集大成であったが、ヒトにおける急性中毒やその対処方法を欠いていた。したがって、その臨床編ともいうべき今回の翻訳を加えることによって、「化学物質毒性ハンドブック」をより完全なものにすることができる。
 原書の特徴をさらにいくつか挙げれば、第一に、随所に新しい視点が盛り込まれている。たとえば、日本でも問題になっている物質乱用に6章が、薬草や栄養補助食品による中毒に1章が割かれていて、この問題についての先行指標でもある米国の実態を知ることができる。現在のところ、この分野における日本でもっとも充実した参考書と言える。また、中毒の教科書としては珍しく放射線障害について1章が割かれているのも利用価値を高めている。第二に、物質別の記述以外に、本文の4分の1が、中毒患者の治療総論と、臓器別に中毒を扱っていることで、中毒を縦からと横からと見ることができる。第三に、新しい形の食中毒を含め、当然ではあるが、アメリカ大陸における動植物中毒の詳細をカバーしていて、この分野における、代わるべきもののない参考書となっている。第四に、参考文献が新しく、ほとんどが1990年以降のもので、全体を通じて最新の知見が網羅されている。第五に、薬毒物の中毒濃度や、治療薬・解毒薬の投与量など実用性の高い付録が充実している。
 原書の発行から1年足らずで翻訳の刊行に漕ぎ着けられたのは、5000ページを超えるPatty' Industrial Hygiene and Toxicologyの翻訳を手がけたメンバーのうち監訳者を含め13人がその経験を十分に生かし精力的に取り組んだ賜物である。今回もまた、読みやすい日本語として翻訳することに訳者も監訳者も最大限の努力を傾けた。充実した内容とあいまって、多くの利用者に受け入れられることを願っている。
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