バイオマテリアルは,古くは歯や骨などの生体硬組織の欠損部を補修する生体埋め込み材料として発展してきました。現在では金属,セラミックス,高分子材料から作られたさまざまな人工臓器が,すでに実際の医療現場で患者さんに多大なる恩恵を与えています。一方で,ヒトゲノムの解明をはじめ分子生物学の発展,バイオテクノロジーの革新,さらにナノテクノロジーによるマテリアルサイエンスの躍進もあり,バイオマテリアルの研究分野とその応用分野がきわめて広汎になってきました。そのために,バイオマテリアルも生体を構成する分子,細胞,組織に作用させて,それらの機能制御を行える材料としても広く考えられるようになりました。実際,著しい進展をみせている再生医療・組織工学,ドラッグデリバリーシステム(DDS),医療計測工学において,優れた機能を有するバイオマテリアルの創製はそれらを支える基盤技術としてなくてはならない課題となっています。

バイオマテリアル研究は,工学,理学,薬学,医学を含む学際領域科学であり,また医療機器など産業利用としての実学としての側面を有するきわめて広汎な内容を含む分野です。これまでに,これらをすべて網羅するような成書は日本にはなかったように思います。この分野をさらに発展させるためにも,バイオマテリアルの概念と最近の動向を整理,集約するとともに,その問題点を喚起することは重要であるという監修者の共通認識のもとに本書「先端バイオマテリアルハンドブック Encyclopedia of Advanced Biomaterials」は企画されました。バイオマテリアルの基礎から応用,実用化までを幅広く概観し,さらにその評価法や薬事法など実用書としても充実した内容になっており,バイオマテリアル研究者にとって座右の書としておおいに活用していただけるものと確信しています。

本書は,各分野の第一線で活躍されている研究者にご執筆をお願いしました。お忙しい中ご執筆を快くお引き受け頂き,心よりお礼申し上げます。また,本書の企画提案から出版にいたるまで終始,熱意をもってご協力下さった蘆田真澄氏と,(株)エヌ・ティー・エスの吉田隆代表取締役,そして編集企画部の方々に心から感謝申し上げます。

平成24 年5 月吉日
監修者を代表して 秋吉 一成
京都大学大学院工学研究科教授
 
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