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『遺伝子治療開発研究ハンドブック 第2版』の出版にあたって
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遺伝子治療の臨床開発が米国で開始されてちょうど10年経った1999年に
『遺伝子治療開発研究ハンドブック』(日本遺伝子治療学会編)の初版が発刊されました。
当時は,遺伝子治療という新しい治療モダリティーに大きな期待が寄せられた「黎明期」から,
有害事象の発生や倫理的問題で一旦基礎研究に立ち戻るべきとの気運が高まった「充電期」に移行する時期でした。
さらにこの10 年間は「発展期」として,がんに対するウイルス療法,
単一遺伝子疾患に対するアデノ随伴ウイルスベクター製品,重症複合免疫不全症に対するex vivo 法,
血液がんに対するCAR-T 療法等,遺伝子治療の新薬認可が世界で相次ぎ,
我が国でも国産製品が複数承認されるに至りました。遺伝子治療は,
今や様々な疾患領域で治療革命を起こしています。世界の巨大製薬企業を始めとする数々の企業が,
創薬のターゲットを遺伝子治療に向けており,開発競争が加速しています。
世界保健機関(WHO)は,2020 年1 月30 日,のちにパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症
(COVID-19)について緊急事態を宣言しました。ほぼ同時に,欧米ではワクチン開発が始動し,
その先頭を切ったのが,SARS-CoV-2 のスパイク蛋白質をコードするメッセンジャーRNAを
非ウイルスベクターで筋細胞内に導入,もしくはスパイク蛋白質の遺伝子をアデノウイルスベクターで
筋細胞内に導入する手法で,いずれも遺伝子治療技術を用いたものでした。前者の治験は早くも2020年4月から始まり,
2020年12月には緊急承認によって世界各国で使用が開始されました。
遺伝子治療技術がいかに迅速に医療に応用できるかを世界は目の当たりにし,日本では特に,
その基盤技術開発の重要性が再認識される契機となりました。
新型コロナウイルスワクチンが実は遺伝子治療の技術を用いていると意識している一般人は少ないでしょう。
それほど遺伝子治療は身近なものとなりました。ゲノム編集などの技術革新も追い風となり,遺伝子治療は現在,
医薬品開発の主要なジャンルになったと言えます。このような背景の中,高い評価を受けました初版から24年の歳月が経ち,
2度目の大改訂を求める読者の声が高まって,第2版出版の運びとなりました。遺伝子治療開発研究におきましては,近年,
著しい技術の進歩と豊富な臨床データの蓄積があり,また遺伝子治療創薬を取り囲むさまざまな環境も変化してきております。
そのため,一般社団法人日本遺伝子細胞治療学会が総力を挙げ,
オールジャパンの幅広い専門分野の第一線の方々にご執筆頂きました。
お陰で,関連する産・学・官のあらゆる分野の読者にとって指針となり,
また遺伝子治療に関心を持つ一般の読者にとっても近年の動向が解るような,
全く新しいハンドブックに生まれ変わりました。
最後に,本書の計画および遂行にあたり,東京慈恵会医科大学の大橋十也先生と衛藤義勝先生,
株式会社エヌ・ティー・エスの吉田隆社長には多大なご尽力を賜りました。厚くお礼申し上げます。
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2023年4月吉日
監修者 藤堂 具紀
東京大学医科学研究所 先端がん治療分野 教授
東京大学医科学研究所附属病院 病院長 |
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遺伝子治療開発研究ハンドブック 第2版 |
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