出版にあたって

 現代のきわめて高度で精緻な科学技術の体系において,表面科学の知識体系と技術体系が大きな役割を演じていることは万民の認めるところである。わが国は現在,ライフサイエンス,情報通信,環境,ナノテクノロジー・材料の4分野を重点分野として,科学技術振興のための研究開発の戦略的重点化を行っているが,そのすべてに表面科学が深く関与し,大きく貢献している。
 表面科学は,物理学,化学,生物学などの基礎理工学を学問的基盤とし,材料科学,物性科学,ナノ物質科学,機能デバイス科学,環境科学,生命科学などの諸分野において基幹的な役割を果たしている。すなわち,きわめて幅広い分野に関与しかつ密接な関係を有する,横断型ないしは融合型研究分野であるということができる。
 日本表面科学会は,わが国において唯一表面科学を総合的に考究する学会である。その活動の成果を,論文,解説,総説などは「表面科学」誌およびe−Journal of Surface Science and Nanotechnologyに,著書などは「表面分析辞典」,「表面分析図鑑」,「表面・薄膜表面分析シリーズ」,「表面分析技術選書」シリーズなどとして発行してきた。本書は上記の著書の内容をほぼ網羅する総合的・便覧的な性格を有するものである。
 本書は日本表面科学会25周年記念事業として企画され,本学会の総力をあげて執筆・編集され,刊行された。また,本書は本学会の10周年記念事業の一環として発行された『表面科学の基礎と応用』の全面的な改訂・増補版に相当するが,まったく新たな発想のもとに,企画・編集された『新訂版・表面科学の基礎と応用』である。
 本書は,急速に発展し日々進歩する表面科学の広大な分野を,大学学部程度の予備知識にて理解できるよう執筆をしたものであり,大学,研究所,企業などにおける研究者・技術者の諸氏にとって,座右の書として日常的に参照していただくことのできるハンドブック的な利用を念頭に置いている。
 本書の刊行に際して,誠に多数に及ぶ執筆者の皆様の絶大なるご努力に深く感謝申し上げたい。また,岩澤康裕日本表面科学会副会長・本書編集委員会代表をはじめとする編集委員の諸先生方の長期間にわたる多大なご尽力と,杉田利男元日本表面科学会会長と宮崎榮三元日本表面科学会会長の両編集顧問の強力なご支援に心より感謝申し上げたい。また,企画・編集・出版のあらゆる業務にご協力いただいた,(株)エヌ・ティー・エス編集企画部松風まさみ,松塚愛両氏に心より御礼を申し上げたい。
2004年4月  日本表面科学会前会長 東京理科大学教授 二瓶 好正
編集委員会を代表して

 『表面科学の基礎と応用』は1991年に,日本表面科学会創立10周年を記念して出版された。表面科学を総合的に網羅する解説的,便覧的な刊行物として,多くの研究者・技術者から高い声価と好評を得てきた。表面科学の進歩は理論と実験の両面で近年とくにめざましく,科学・技術体系の深化と同時に再構成がすすみ,表面科学が扱う領域が拡大し多様化するにつれ,改訂版出版の要望が大学,研究所,企業などの研究者・技術者から強まってきた。このような日進月歩の表面科学の研究に携わっている研究者・技術者のニーズに応えるためには,21世紀にふさわしい最先端科学技術を取り入れた新訂版が必要である。
 日本表面科学会では創立25周年記念事業の一環として,『新訂版・表面科学の基礎と応用』を刊行することを決めた。2001年5月に編集準備会を立ち上げ,つづいて7月に編集委員会を発足させ,改訂にあたっての基本方針の決定を行った。今次新訂版では,前書の基本理念を生かしつつも,過去15年の表面・界面の科学・技術の進歩を反映させ,ほぼ全面改定と大幅な増補を行った。とくに情報通信,ナノテクノロジー,高度機能材料,バイオ,環境など,21世紀の人類社会に深く広くかかわる科学技術を大幅に取り入れた。前書が基礎編,基礎発展編,応用編,応用発展編の4部構成になっていたのに対し,新訂版では基礎編,基盤技術編,応用編の3部構成として,読者と執筆者の双方にとり各章の位置づけが明確となるように,また相互の関連も分かりやすくなるように配慮した。
 『新訂版・表面科学の基礎と応用』は,表面科学の広大な分野を網羅する便覧・ハンドブック的な利用を念頭において企画・編集された。基礎編では,表面・界面の構造,電子状態,励起状態,物性,動的現象など,表面・界面の基礎について大学学部程度の知識で理解できるように解説した。基盤技術編では,種々の表面・界面の作製,解析,評価などの基盤となる,真空技術,計算科学,多種多様の表面分析法などについて,将来の発展も見越して,それらの基礎的原理から応用まで最新の手法と事例を解説した。応用編では,表面・界面の応用について材料別に典型的なものから最新の対象まで,今後の動向も含めて解説した。
 今次の新訂版刊行は,のべ450名の執筆者各位の格別のご理解とご協力があって初めてなしえたといえる。ご執筆をお願い申しあげた方々は,各分野の第一線で活躍されている研究者,技術者の諸氏である。ご多忙中ご執筆の労を賜ったことに深く謝意を表したい。また本書は編集顧問および編集委員各位のご協力と多大なご尽力により実現したものである。さらに企画・編集をとおして多くの関係各位のご指導とご協力を賜った。編集委員会代表としてここに深甚な謝意を表する。
2004年4月  編集委員会代表 岩澤 康裕
Copyright (C) 2003 NTS Inc. All right reserved.