発刊にあたって

 パワーエレクトロニクスは,電子による電力の変換・スイッチングに関する分野の総称とされている。高純度の単結晶半導体として,ゲルマニウムそしてシリコンを基材とする装置が,1950年代に実用化され,その出現以前に電力変換に適用されていた水銀整流器やセレン整流器などに比較すると,優れた特性をもつことが明らかになった。さらに解析技術と解析ツールの急速な進歩は,電力変換回路の理論的解析,新規な方式の開発・実用化を促進した。加えて近年の固体集積回路(IC)の微細加工技術が,大電力パワーデバイスへ適用され,その特性に格段の向上が図られた。その結果,パワーエレクトロニクスは20世紀後半において電力・産業・輸送・通信・家電など幅広く浸透している。
 現状のパワーエレクトロニクスを,基礎理論から応用まで幅広く理解するには,多くの時間が必要になるであろう。その解決のため,パワーエレクトロニクスの過去,現状および未来予測を集大成したハンドブックを活用していただくことがよい手法であり,今後の新世代を思考する電力変換技術動向の予測にも役立つであろう。
 今回,パワーエレクトロニクスの研究,専門技術の分野で活動されておられる多くの方々に寄稿をお願いし,パワーエレクトロニクスの生い立ち,基礎的な回路理論,制御・保護方法,応用分野とその製品,関連用品(電池,保護用品・機器など)等をとりあげ,詳細に記述して頂いた。また次世代指向のパワーエレクトロニクスに関連する電磁両立性(高調波対策), 新エネルギーへの適用などにも言及して頂いている。さらにこのハンドブックでは索引用語を多数掲げ,その内容の理解に有効に活用して頂けるように考慮した。
 現在,パワーエレクトロニクスはグローバルに普及しており,そのため世界各国個別の規格があるが,IEC(International Electrotechnical Commission Standard)が国際規格として多数発行されている。版権の問題があるので,ここでは規格類一覧としてハンドブックの終末にこれらの標題一覧を掲げてあるので,これらも必要に応じて参照して頂きたい。また日本にもJIS,JEC(電気学会規格調査会規格),JEMA(日本電気工業会規格)など団体規格があるが,近年のJECはIEC規格と対応して発行されているので参考に標題を示した。
 過去および現状のパワーエレクトロニクスの理解のみでなく,将来の新技術発展への参考資料として、このハンドブックを有効活用して頂ける事を切望するものである。
豊田工業大学 名誉教授今井 孝二
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