次世代パワーエレクトロニクスの課題と評価技術
= 刊行にあたって =

 2020年に始まった全世界的なコロナウィルスの蔓延により,世界各国は人的ならびに経済的に甚大なダメージを受けた。ワクチン接種が進み,2022年になってようやくその回復の光明が見えてきたものの,コロナ後の見通しは未だ不透明といった状況下にある。そんな中,近年地球温暖化の進行速度が加速していると言われており,それを受けパリ協定に代表されるように国際社会共通の課題として世界の平均温度上昇を抑える取り組みが始まった。我が国においても,「2050年カーボンニュートラル,脱炭素社会の実現を目指す」との方針を示すなど,この難しい課題を前倒しで解決することが極めて重要になってきた。そしてこの課題解決を実現するキーテクノロジーのひとつがパワーエレクトロニクスであり,パワー半導体デバイスである。パワーエレクトロニクスによる電力制御は,パワー半導体による低導通抵抗・高速スイッチング技術によって成り立っており,パワー半導体の性能が電力制御の性能を左右すると言っても過言ではない。今後パワーエレクトロニクス装置のより一層の高性能化を実現するためには,次世代パワー半導体材料である炭化ケイ素(SiC),窒化ガリウム(GaN),酸化ガリウム(Ga2O3),さらにはダイヤモンドに代表されるワイドバンドギャップ半導体,ならびにそれら材料の特長を十分引き出すことのできる,回路・実装技術の実用化が必要不可欠であることは言うまでもない。

 2022年7月現在,全世界的に半導体不足が叫ばれている。この半導体不足の理由はいくつかあるが,大きな理由として,たとえばCO2排出実質ゼロを目指した自動車の電動化(xEV化)に伴う半導体需要の急拡大がある。これにより最近ではパワー半導体の需給も逼迫していると言われている。今後は、コロナ禍で落ち込んだ自動車生産等の急回復を睨み、パワー半導体はその需要拡大の新たな機会が巡ってきそうな状況にある。最近発表されたある会社の調査結果によると,パワー半導体の世界市場は2022年から2030年の今後8年で約2.6倍に拡大すると言われており,ここに次世代パワー半導体が入り込み需要の拡大をけん引したいところである。しかし同調査報告によれば, 新材料パワーデバイスは2022年の約1250億円から2030年に1兆円を超える規模になるものの,依然シリコンパワー半導体が多くを占めており,例えば2030年では全パワー半導体市場に占めるシリコンパワー半導体の比率は80%以上である,と予測している。

 このような状況を打破すべく,次世代パワー半導体の製品化を見据えた研究開発が近年非常に活発である。本書『次世代パワーエレクトロニクスの課題と評価技術』では,現在の主役であるシリコンパワー半導体,ならびに次世代パワーエレクトロニクスの中心となるワイドバンドギャップ材料による次世代パワー半導体デバイスを軸に編集された。半導体結晶からデバイス設計,プロセス装置,高耐熱実装技術だけでなく,その材料特性,デバイス特性等の最新評価技術,さらには最先端シミュレーション技術についても詳細に紹介している。今後の伸長が大いに期待できる車載機器や通信機器応用だけでなく,家電・鉄道を含めた産業機器への展開を視野に詳細に解説しており幅広い内容を網羅することができた。脱炭素社会の実現に向けて次世代パワー半導体デバイスの普及をいかに拡大させるか,本書が役立つことを大いに期待したい。

(岩室憲幸「はじめに」)
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