リチウムイオン電池の拡大と正極材のコスト&サプライ 〜EVとの連系における選択と制約〜
= 刊行にあたって =

 本書は今年前半に出版した、EV関する成書「EV、PHEV、HEVと燃料電池車の環境・走行性能分析」と「EV用リチウムイオン電池と原材料・部材のサプライチェーン」の部分改訂版にあたる(*注)。左記の二冊をそれぞれ改訂する方法もあったが、この数ヶ月で現れた変化は、材料>電池>EVの流れの中で、コストを軸とした、極めて選択制の強い変化である。

 ここ数ヶ月の世界の状況は、ウクライナ情勢に端を発した欧州のエネルギー危機、更なる米中のデカップリングと、それに対する日本と欧米の経済安全保障などのリアクションである。

 本書は技術書であり、上記の動向に関して、数値データの集約や試算に基づいて答えを出して行く立場にある。一例として、正極材に安価な鉄リン酸リチウムLFP材が採用され、電池の比容量Wh/Kgが決まり、搭載したEVの走行距離km/kWhがほぼ決まる。コバルトとニッケルフリーのLFPは、正極材としての評価はAh/Kgと出力電圧V、Wh=Ah×V、即ち比容量Wh/(Kg電池)が、EVの走行距離を決める。この間の数値による比較は、コスト設定以外は比較的単純である。

 コバルトフリーでは済まないから、限界までCoを減らしたハイニッケル三元系の、NMCxyz、NMC622やNMC811でやって来たことと、上記のLFPとの関係はどうなのか。置き換えなのか、棲み分けなのか。EVも日産自動車や三菱自動車の“軽乗用EV”が、究極のエコカーとして登場した。これまで売れた大型のSUVタイプEVとはどの様な位置関係になろうか。

 本書は新しいデータソースを、この4,5ヶ月に限って、上記の諸仮題に一定の回答を与えるものである。これが更に数年先の状況を、的確に示すか否かは、甚だ不確定である。あるいはそれより先に、現在進行中の、2030,35年を目処とした、内燃機関車の廃止それ自体が、EV充電電力の“石炭回帰”によって、EVが“石炭自動車”になる可能性もあろう。それ以上に、1,000GWhを大きく超える、大量のリチウムイオン電池が、サプライ・チェーンの目詰まりで頓挫する可能性も高い。

 正極材の化学組成や、二次電池工学的な解析には、可能な限り正確を期したが、試算の為の仮定を置いた部分もあり、詳細は技術の秘密の立場からご容赦を願いたい。本書で取り上げた種々の課題が、筆者の思い過ごしや、杞憂であってくれることを望みたい。


*注:本書は、「EV、PHEV、HEVと燃料電池車の環境・走行性能分析」、「EV用リチウムイオン電池と原材料・部材のサプライチェーン」掲載内容一部の更新と、両書籍に無い新しい項目・データ・考察を追加したものです。書籍それぞれで掲載項目が異なりますので、詳細は各HPでご確認ください。

 (菅原 秀一)
リチウムイオン電池の拡大と正極材のコスト&サプライ
〜EVとの連系における選択と制約〜
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