発刊にあたって

 光触媒の最初の本格的応用商品は1990年代半ばに発売された抗菌タイルといってよいであろう。その後、現在に至る10年ほどの間に、セルフクリーニング機能をもつ外装建材や空気浄化機能内装建材、あるいはコーティング剤、防曇ミラー、空気清浄機など実に様々な製品が発売されている。また、水浄化や土壌浄化、大気浄化、さらには省エネなど環境保全・改善技術としての応用研究もかなり実用化に近いレベルにまで達しており、実規模でのプラント試験が進められている。
 一方、光触媒によるエネルギー変換、すなわち水の完全分解反応の研究も大変活発になり、紫外光を使えば10年前には全く考えられなかった高い効率で水からの水素、酸素の同時発生が可能となり、また、効率はまだまだ低いものの可視光においても水分解に成功したとの報告がなされるようになってきた。
 以上のように光触媒の研究は、環境・エネルギーという今後人類が本格的に直面することになる深刻な課題において、20世紀と21世紀をまたぐこの10年の間に大きな発展を遂げつつある。しかもよく言われているように、光触媒は基礎研究、応用研究、商品開発のいずれの段階においても日本がリードしてきた、まさにオリジナル技術として日本が世界に誇れる分野である。
 光触媒の本格的な市場展開が進み、さらに欧米諸国やアジア各国が必死に追い上げをみせようとしている今、光触媒の基礎・応用知識、さらに製品に関するあらゆる情報を集大成した書を作ることは、まさに今後もこの分野における世界のリーダーとして日本が進んでいくために必要な作業と思い、本書を企画した。現段階における最新、最良の知識と情報を盛り込むため、研究開発、商品開発の最前線にいる研究者、技術者の諸氏に無理をお願いして原稿執筆を依頼したところ、ほとんどの方に快くお引き受けいただけたことは望外の喜びである。
 最後に、本書が日の目を見ることができたのは、編集を手伝ってくれた入江寛博士(東京大学大学院工学系研究科)、砂田香矢乃博士(東京大学先端科学技術研究センター)、および厳しい原稿の催促をしてくれた潟Gヌ・ティー・エスの臼井唯伸氏のおかげである。ここに深く謝意を表する。
2005年5月 編著者を代表して 橋本和仁
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