「発刊によせて」

触媒が,石油精製,石油化学等の化学工業はもとより,自動車排ガス浄化,ファインケミ カルズ合成,燃料電池,光触媒等の環境,有機合成,エネルギー分野で多用され,人類社会 を支える大きな要素の一つになっていることはご高承のことと存じます。地球環境問題がク ローズアップされている現在,触媒科学はこれからの基礎科学や産業を支え,地球の未来を 左右する大きな科学技術の一つでもあります。このように重要かつ多大な期待が寄せられて いる触媒ではありますが,ご承知のように,触媒分野にはまだまだアートの世界から脱却で きていないと言わざるをえない面が数多く存在しています。例えば,固体触媒のXRD や表 面積等がほぼ同一でも触媒活性が大きく異なることが多々あります。なぜそのような違いが 出るかについては,多くの検討がなされているにもかかわらず,はっきりしない点が多いの が現状です。一方,大学をはじめとして触媒研究に携わる研究室では,固体触媒調製に独自 の工夫が加えられ,それがまた触媒性能とも密接に関係しています。
触媒科学では,触媒調製法 ─ 触媒要素(内部構造,表面構造,活性点構造,原子価状態 等)─ 触媒機能の関連が,多くの究明努力がはらわれているにもかかわらず,いまだ大系化さ れていないというのが現状と言わざるをえません。この大系化に資することはもちろん,触 媒調製の問題点や相違を明確にするため,まずは「この研究室のこの触媒の調製法はこうなっ ています」をきちんと集積し,整理するのが,この分野の第一歩だろうと考えました。即ち, 興味ある触媒系の調製法を分野ごとに整理して1 冊の本にまとめれば,新たに触媒の研究を 始めようとする人,触媒研究に更なるヒントを得ようとする人,あるいは触媒について幅広 い知識を得ようとする人などにとって,企業,大学を問わず,大変有意義であろうと考えま した。この観点から,本書では,種々の触媒の具体的な調製法(レシピー)を集大成しており ます。但し,錯体触媒分野,工業触媒分野ではレシピーの集大成はややそぐわないので,反 応や触媒ごとの留意点等を取り纏めることに致しました。
本書は8 編からなり,それぞれの編はいくつかの章から構成されています。第1 編では金 属触媒,第2 編では金属酸化物触媒,第3 編では多孔体触媒,第4 編では均一系触媒,第5 編では光触媒,第6 編では燃料電池触媒,第7 編ではバイオマス変換触媒,第8 編では工業 触媒を取り上げています。編集委員会で全体の構成を相談した際,触媒の状態別の章と反応 別の章が混在していることが問題となりました。しかし,例えば後者の章の触媒を金属の章 に掲載したり,酸化物の章に掲載したりするとかえってわかりにくくなり,読者の便に供さ ないことになると判断し,このような構成に致しました。
本書が触媒の専門家から入門者まで幅広く役に立ち,さらなる触媒科学の進歩につながる ことを願っています。

平成23 年3 月吉日
監修  岩本 正和
東京工業大学フロンティア研究機構 教授
発刊によせて
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