環境社会学事典
= 刊行にあたって(一部抜粋) =

 新型コロナウイルス感染症,豪雨による洪水被害,猛暑・台風・豪雪の激甚化など,私たちの日常生活は多くのリスクに直面しています.このようなリスクの根源には人間社会と自然環境との関係性の歪みが潜んでいます.こうした時代だからこそ,環境社会学の視座やアプローチ,これまでの研究蓄積,そして今後の展開が社会にとって重要な意味を持つことになるでしょう.

 環境社会学は,人間社会とその周辺の自然環境との相互作用を社会や人々の側から検討する学問です.日本の環境社会学は,公害や大規模開発の問題等の解決を目指す「環境問題の社会学」と,人間と自然環境の多様な関係性や生活世界の理解を目指す「環境共存の社会学」として展開されてきた研究がベースとなっています.ともに被害者,被災者,生活者,居住者の視点とフィールドワークを重視する研究です.もちろん,現場だけで終わるわけにはいかないケースが多いことは確かですが,まずは現場を訪れ,驚きや怒りとともに新たな発見を経験することが研究の継続と展開に不可欠となります.隣接する学問分野との協働を含む学際性も環境社会学の特長といえるでしょう.

 「フューチャー・アース」は持続可能な地球社会の実現を目指すため世界の研究者コミュニティや国連機関などによって2015年に開始された学際的な国際協働研究プログラムで,日本学術会議はこれを強く推進しています.この「フューチャー・アース」が重視しているのが「超学際(tr ans- di sci pli nar y) 」研究です.これは,「学際(inter-disciplinary)」研究を超え,地域社会などさまざまな主体と連携・協働しつつ,当事者の視座から研究の目的を設定し,可能な範囲で当事者と一緒に研究を実行し,研究成果の社会実装を構想する研究です.実は,環境社会学徒がこれまで試みてきた研究のなかには,「超学際」という用語は使っていなくても実質的には「超学際」研究がたくさん存在しています.つまり,環境社会学は時代を先取る研究を蓄積してきたといえるのです.

(中略)

 本事典が,環境社会学の来し方を振り返り,また行く末を照らすサーチライトのような役割を果たし,読者のみなさまがそれぞれの関心に応じて活用してくださることを願っています.

2022年9月吉日
編集委員長 井上 真
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