食品包装産業を取り巻くマイクロプラスチック問題 書籍+CDセット
= 発刊に寄せて =

 ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)をはじめとする汎用プラスチックは安価、軽量、自在な成形性による高い意匠性・デザイン応用性などの特性で、我々の日々の生活を豊かにしてきた。丈夫で腐らないという特徴を活かして幅広い分野で利用されてきた。PE、PPはプラスチックの国内生産量の約半分であり、用途別でみると包装フィルム(43%、2017年)、容器(14%)で半分以上を占める。一方でプラスチックの多くは自然環境中で分解されにくいため、様々な環境問題を引き起こしている。特に近年、マクロプラスチックとマイクロプラスチックの海洋汚染が深刻になっている。また、フリース等に利用されるポリエステル、ナイロンといった化学繊維のマイクロファイバーが洗濯で抜け落ち、川・海に流出することで汚染の原因となっている。現状、海洋に漂流するプラスチックの正確な量は把握されていないが、世界で毎年900万トンを超えるプラスチックごみが陸上から海洋へ流出すると報告されている。この量は500mLPETボトル5000億本に相当する。また、プラスチックごみの発生量の半分以上がアジアである。発生源は陸上由来のものが、海上に直接投棄されるものより多く、不適切な処理による海洋プラスチックごみの主たる排出源がアジアである。海洋中のマイクロプラスチックについては、我々は現時点でも食物連鎖を通じて、一人当たり毎週クレジットカード1枚相当の5グラムを摂取し、さらに2050年には海洋プラスチックごみの量は魚より多くなるとの報告もあり、極めて深刻な状況である。

 プラスチックごみの中でも、とりわけ海洋へ流出する可能性が高いワンウェイ用途のプラスチックについては、海洋へ流出しても環境への負荷が小さい新素材(海洋生分解性プラスチック)へ代替することが社会的に切望されている。経済産業省からは令和元年5月に海洋プラスチックごみ問題の解決に向け、イノベーションを通じた取組みとして、海洋生分解性プラスチックの開発・導入普及を図るための主な課題と対策を取りまとめた「海洋生分解性プラスチック開発・導入普及ロードマップ」が発表された。これには@海洋生分解性プラの種類を増やすことで製品の適用範囲を増やす、A複合素材の技術開発による多用途化、B革新的技術・素材の研究開発の三つのフェーズが示されている。

 本書はマイクロプラスチックに関わる食品包材プラスチックの現状と課題、海洋生分解性プラスチックの開発動向を取り上げた。本書が海洋プラスチックごみの解決に向けた対策の一助になれば幸甚である。
大阪大学大学院工学研究科  宇山 浩
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