発刊にあたって

 平成14年(2002年)の春,財団法人長野県テクノ財団・同善光寺バレー地域センター事務局長の原山 昇氏ならびにコーディネーターの服部 寛氏が小生に語られた:「大学の研究成果や企業の先端的技術を活用して,町おこし,企業おこし,創造的ものつくりを本気になって推進して,この不況脱出に少しでもお役に立ちたい」と。話し合いの結果,長野県内の企業は精密電子・機能部品,精密機械・研磨加工関連技術について日本の中で屈指の実力があるということであり,「産学官連携を一層強力に推進して,地域ニーズに密着した超精密関連産業の育成を図るために,微細加工からナノ加工までの研究状況を把握し,研究基盤整備や製造技術,ならびに計測技術を習得する」という目標に向かって研究会を開催し,地場産業の活性化と創造的ものつくりのために働きましょうということになった。
 このことが契機になり,「超精密産業技術研究会――微細加工からナノ加工まで――」という名称の研究会が発足したのである。小生にとって「やせ馬に重荷」ではあったが,少しでもお役に立てればと思いお引き受けした。ここに,(財)長野県テクノ財団善光寺バレー地域センターと信州大学地域共同研究センター(CRC)との共催で本研究会が発足する運びとなった。
 時間の経過は実に速いもので,平成14年の6月20日の第1回研究会を開催して以来,およそ隔月で開催して,瞬く間に最終回の第6回研究会(平成15年2月13日)を盛況のうちに終了することができ嬉しい気持ちでいっぱいである。仕事や研究が飯より好きという,第一線で活躍しておられる合計15名の講師を迎え,県内外の参加企業・長野県の工業・精密試験場・信州大学合わせて28社,また参加者延べ数220余名,アルバイトの学生諸君,善光寺バレーの事務局の皆さん,CRCの事務局の皆さんなど多くの方のご協力を頂き,また熱心にご討論を賜った。この場をお借りして心より感謝の意を表したい。
 本研究会の内容には,長年にわたる著者の汗の結晶が詰まっている。そこには21世紀産業界のコメといわれるナノテクノロジ―へのタネが満載されているといっても過言ではない。
 本研究会設立の初期の目的を達成するためにも,また県内外からの是非書物にとの要望もあり,(株)エヌ・ティー・エスのご協力のもと,専門書として刊行することになった。
 さて,本書の主題は「実用超精密加工と計測技術」であり,副題を―ナノテクノロジーの新展開に向けて―とした。この書物は,上記の「超精密産業技術研究会」の内容をほとんど網羅して,読者が容易に理解できるように編集したつもりである。本書は,大きなキーワードをつけた第1章から第6章までと,あとがき,用語解説の構成となっている。各章には2名から3名の著者がほとんどライフワークあるいはそれに近い貴重な成果を執筆した。あとがきには,21世紀産業革命といわれるカーボンナノファイバー発現の原点からの研究者のナマの声を掲載した。また,付録の用語解説は智恵を絞ってわかりやすい解説にした。
 「3人よれば文殊の智恵」という諺があるように,優れたアイデアを創出するためには産学官連携を機軸にして,全体的,戦略的観点から研究開発を行い,新しい21世紀に対処していかなければ生き残れないという厳しい時代背景を認識しなければならない。
 以上,本書から汲み取れる情報が,皆様にとって,21世紀への宝の山の構築に,そして磐石な土台の創生に向けて少しでもお役に立てれば誠に幸いである。
 多忙のところにもかかわらず本書を精力的に執筆された皆様ならびにご支援下さった関係者に厚く御礼申し上げる。また,本書の執筆にあたり,内外の多くの著書,論文等を参考にさせて戴き,あるいは引用させて戴いた。ここに深く感謝の意を表する。
 最後に,本専門書の出版に対して献身的なご協力を頂いた(株)エヌ・ティー・エス代表取締役の吉田 隆氏,そして編集企画部の臼井唯伸氏・関係者に心から感謝申し上げる。
平成15年9月吉日  信州大学教授 中澤光男
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