『ナノマテリアルハンドブック』刊行に際して

 ナノテクノロジーは,バイオ技術,情報通信技術と並んで,これからの基礎科学や産業の死命を制する技術であり,地球の未来を左右する環境・エネルギー問題と深くかかわる技術であることが一層明白となってまいりました。ナノテクノロジーへの社会的関心が大きく高まってきたのは,米国のNational Nanotechnology Initiative(NNI)の発表以来ですから,まだ数年しかたっておりません。にもかかわらず,ニュースメディアには「ナノテク」に関係した研究や製品の記事を見ない日はない,と言ってもよい状態です。ナノテクを専門とするニュースマガジンが出版され,ウェブサイトがいくつも設置されています。日本政府もナノテクを重点研究分野の一つとして位置づけ,多額の研究資金を投入し始めました。産業界からの期待もきわめて大きいものがあり,ナノテクをキーワードとする開発体制をとる大小の企業が増えてきました。
 ナノテクの基盤となる精密加工技術,材料技術,解析技術については,わが国の産業の強みである「ものづくり」を支えるものとして,ナノテクブームを待つまでもなく,国際的にトップレベルにありました。しかし,これらの強みが「ナノテク」時代に生かされるためには新しい発想が必要となります。ナノテクは分野融合,領域横断の要素がきわめて強い技術です。ナノテクの基盤となるナノ材料も同様な条件にあり,例えば金属,ポリマー,セラミックス,生体物質などの素材が,伝統的な領域を越えて思いがけない新しい技術に結実する可能性も大きいのです。そこでは物質の異質性以上に「ナノメートル(nm)」というサイズの共通性が,技術開発の中で大きな意味をもつことになります。
 『ナノマテリアルハンドブック』では,これらのナノ素材についての俯瞰的な情報を提供する実用書であることを第一の目的としています。ここではきわめて幅広い物質,材料が対象となるため,応用例よりはむしろナノテクノロジーの基盤となるナノ素材の特性,合成,物性に力点を置いています。研究開発にあたる方々の座右に置いていただき,困ったときにすぐナノマテリアルについての基本情報が得られるような構成に基づいています。将来の応用は,これら基本情報をどう料理するかにかかってくるでしょう。
 今後は,これを書籍の形式で出版するだけでなく,電子的なデータベースとして閲覧,検索できるようにすることも計画しています。ナノマテリアルに関する基本情報を網羅し,つねに最新に保つことで,本書がこの分野における必須の資料となり,わが国のナノテクの発展に貢献することを期待しています。
2005年1月 監修者 国武 豊喜
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