ナノテクノロジーは21世紀の最も重要な科学技術だと期待され、関心も集めている。
 それは、この新しい技術によって私たちの社会や暮らしがよりよくなるという期待である。従来からある製品の改良だけではなく、ナノテクノロジーならではの全く新しい機能を活かした技術も医薬品を中心に急ピッチで実用化が進められている。こうした技術で私たちの暮らしを変えるとはいっても技術が社会に受け入れられてこそだといえる。そこで、我々産業技術総合研究所ナノテクノロジー戦略ワーキンググループでは、2004年8月から様々なナノテクノロジーの社会受容に係る取組を実施している。
2007年に設置された内閣府総合科学技術会議基本政策推進専門調査会の分野別PT科学技術連携施策群の一つの施策として「ナノテクノロジーの研究開発の推進及び社会受容に関する基盤開発」が取り上げられた。また、この連携施策群の補完的課題として「社会受容に向けたナノ材料開発支援知識基盤」プロジェクトが取り上げられ、我々は社会受容の取組の一環として、東京大学及び物質・材料研究機構とともに当該プロジェクトを実施している。
本プロジェクトの目的は、ナノ物質の安全性の不確実性に対し、リスク評価機能を備えた研究開発推進のための知識基盤が必要である。企業が科学的根拠や推論により判断をくだして、研究開発を進めていくための、知識が構造化されて実装された統合化知識基盤のプロトタイプを作成することである。
そこで、材料の物理化学的な特性に焦点を当て、それぞれの物質の物性因子が、どのようなリスクを持っているのかを過去の研究報告から調査し、個々のナノ材料が持つポテンシャルリスクを同定する。次年度には、これらナノ材料が生体に侵入するまでの挙動、侵入したあとの動態を推測し、曝露評価の支援モジュールを開発する。一方で、膨大なリスク情報を蓄積、解析するために、これら情報をデータベース化し、社会受容の促進のためのツールとして、情報群をユーザーが容易に閲覧できるソフトウェアへのリンク作業も進めている。
当該プロジェクトの進捗状況を周知すること、また、プロジェクトの方向性について確認するため、国際展示会であるnanotech2009においてシンポジウムを開催することとした。
本書は、シンポジウムの開催を記念し、さらに、当該プロジェクトの成果を広く周知し、データベースの更なる充実を図るため、さらには構築された知識基盤が今後のナノテクノロジー産業の発展に資するための一助となることを目指して出版化し、情報発信を行うものである。
(「概要」より抜粋)
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