宇宙空間から素粒子まで、私たちの世界のどんなものでも「かたち」をイメージすることは、その本質を理解することと密接に結びついている。また、さまざまな「かたち」と「はたらき」との思いがけない関係を芸術家の天才的な直感は視覚化している。サルバドール・ダリの代表作『記憶の固執(柔らかい時計)』は、常識に反する変形可能な(トポロジー的)世界を柔らかい時計で象徴し、直感の表層をはがして視えてくる「別の真実」のイメージを喚起している。
 本書は、「かたち」をキーワードとしてマテリアルデザインを新しい視点から展望するユニークな企画である。「かたち」というコンセプトを、先入観をなしに見つめなおすサブテーマとして、「対称性」、「トポロジー」、「グラフ」、および「フラクタル」、を取り上げ、数学・幾何学を専門とする執筆者にもご参加いただいた。抽象化によって事象の本質を顕在化させる数学・幾何学のアプローチと、現実の空間で目に見える(ように直感される)マテリアルを取り扱う材料科学の交流の契機となることを期待している。
(手塚育志 序論 「かたち」からはじまるマテリアルデザイン より抜粋)
Copyright (C) 2009 NTS Inc. All right reserved.