発刊にあたって

 「コンクリート用化学混和剤」が化学混和剤に関するわが国で初めての専門書として(社)日本材料学会より出版されたのは1972年であり、すでに30年余が経過した。その当時、すでに混和材料は、コンクリートの第5の材料としての位置を占めていたが、その役割は二次的なものであった。しかし、その後のコンクリート用材料の変化、要求性能の多様化、混和材料のめざましい発展等多くの変化を経験し、現在では、混和材料はコンクリートの製造になくてはならないものになった。
 この間、高度成長、バブルとその後の時代を経て21世紀を迎え、膨大なコンクリート構造物が建設されるとともに新しいコンクリート技術が次々と開発された。1970年頃のコンクリート構造物において、20N/mm2前後が普通であった設計基準強度が、高強度・超高強度コンクリートの開発により、100 N/mm2にいたるものも製造可能となり、このコンクリートが現場打設されるようになった。水中コンクリート分野では水中不分離性コンクリートの開発により、水中落下しても品質が損なわれないコンクリートが実現し、トレミー管等を用いる従来工法を一変させた。締め固めを行わない水中不分離性コンクリートの概念は、陸上の構造物にも展開され、締め固めの必要のない高流動コンクリートが開発された。超高強度コンクリートを実現したのは、高性能減水剤とシリカフュームである。水中不分離性コンクリートを実現したのは水中不分離性混和剤と高性能減水剤である。高流動コンクリートを実現したのは高性能AE減水剤と鉱物質微粉末である。これらの新しい技術は、いずれも化学混和剤あるいは混和材により実現したことになる。
 一方では、骨材資源の問題が深刻化し、良質な天然骨材の枯渇を招き、砕石・砕砂が多く使用されるようになった。その結果、コンクリートの単位水量が増大し、コンクリートの耐久性の低下が懸念された。この事態に対応するために、単位水量を抑制しつつ、所要の流動性を確保する技術が必要とされた。これへの対応を可能にしたのも高性能AE減水剤である。
 コンクリートは、高炉スラグ微粉末やフライアッシュ等、建設産業以外の産業からの副産物を混和材として使用し、廃棄物の削減に以前から大きな貢献を行ってきた。資源の保全、エネルギーとCO2の削減や廃棄物の削減が必要な環境の時代を迎え、高炉スラグ微粉末やフライアッシュ等の副産物を混和材として利用することが一層強く求められている。
 本書は、最近のコンクリート技術の進展を支えてきた化学混和剤と混和材の最近の動向を踏まえ、1972年に出版された「コンクリート用化学混和剤」の改訂を行うとともに、混和材の項を新たに設定し、「コンクリート混和材料ハンドブック」としてまとめたものである。本書の編集に当たり、(社)日本材料学会混和材料部門委員会の中に、化学混和剤小委員会と混和材小委員会を設置し、活動を進めた。
 現在の化学混和剤と混和材は、コンクリートに必要とされる様々な性能を創出している中心材料であり、これらの材料の現状をハンドブックとしてまとめるのは、現在の高性能コンクリートに関する技術の現状をまとめる作業に等しい。したがって、小委員会委員だけでは執筆困難であり、委員以外の皆様にも多大なご協力をいただいた。54名の執筆者と3年余の時間をかけて、ようやくまとまったものであり、執筆いただいた皆様に深く感謝したい。本書が、コンクリート技術に従事する研究者、技術者の方々に混和材料に関する最新の情報を提供できることを願ってやまない。
2004年4月  社団法人 日本材料学会 コンクリート混和材料部門委員会委員長 児島 孝之
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