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= 刊行にあたって =

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日本スポーツ社会学会は1991年に発足し、その30周年を契機とした出版事業として本事典が企画されました。(中略)スポーツ社会学という学問領域が「事典」という体裁をとって刊行されるのは初めてのことです。
スポーツ社会学は、ひと言でいえばスポーツと社会との関係やそこで生じる課題を社会学的に研究する学問領域といえますが、その対象領域は多岐にわたっています。例えば、この事典では大項目(章)として、「歴史」「文化」「環境」「グローバリゼーション」「集団・組織」「健康」といった少し抽象度の高いレベルや、「教育」「経済」「政治」「福祉」といった制度レベルとの関係を扱っています。また、スポーツという文化それ自体を社会学的に検討する立場から、「身体」「遊び」「生涯スポーツ」「イベント・メガイベント」「スポーツインテグリティ」といったスポーツ文化に引き寄せて考えられる構造や課題に対しても大項目として扱っています。このように一見すると水準の異なる23の章が取り上げられていますが、これもスポーツ社会学の研究対象が社会変動とともに変化し、比較的抽象度の高いマクロな概念レベルからミクロな具体的なレベルまで多様な現象として認識されていることの現われといえるでしょう。また、そこにはスポーツ社会学の隣接領域であるスポーツ哲学やスポーツ史、あるいはスポーツ教育学やスポーツ経営学等といった、主に人文・社会科学を中心とする幅広い知見も大いに参照されています。
スポーツ社会学の研究史を辿ってみると、その背景には1950年に発足した日本体育学会(現日本体育・スポーツ・健康学会)の一専門領域である体育社会学との強いつながりがあります。体育社会学は、まずはスポーツを教育の対象として扱うことでそのフィルターを通した社会との関係や課題を扱ってきました。しかし、スポーツが社会にとって重要な文化現象として意識され、トップスポーツばかりでなくみんなのスポーツや生涯スポーツとしてその影響力が高まってくると、改めて「教育の中のスポーツ」から「社会の中のスポーツ」へとスポーツを俯瞰し、その文化的、あるいは社会的課題に対する社会学的な説明や解決の方向性が求められるようになったのです。このような学的経緯から、先ほど述べた日本スポーツ社会学会の創設は、体育学分野の研究者が中心にならざるをえませんでした。しかし、他の体育学出自の独立学会と異なるのは、この学会の設立当初から社会学プロパーとして活躍されていた研究者が学会の中枢を担って参加し、今日までスポーツ社会学におけるディシプリン(主に理論や方法論)に大きな影響力を与えたことです。本事典には大項目として「総論(スポーツ社会学の歴史)」が示され、他の大項目における中項目数のおよそ2倍にあたる24の中項目が取り上げられていますが、その内容はスポーツ社会学の現時点における学的状況を表しています。
いずれにしても、スポーツ社会学の30年は、良い意味で研究対象の多様性を担保しつつ、体育学と社会学という学問領域が交差するユニークなディシプリンを背景に発展してきました。本事典は学会の成果を世に問うものとなっています。
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スポーツ社会学事典 |
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