発刊にあたって
 微生物の持っている潜在能力を引き出して我々の役に立てたり、あるいは疾病、環境問題など我々の健康と生活に関わる微生物に対処するには、まず、自然環境あるいは生活環境の生棲場所よりその微生物を“分離”し、実験室に持ち込んで培養することが基本であることは言うまでもありません。これまで微生物研究者は多数の徽生物を分離し、その活用と制御に数々の成功をおさめてまいりました。
 しかしながら、海洋や土壌中に直接検鏡にて観察される細菌の数は、実際に測定される一般生菌数の約10分の1といわれるように、未だ知られざる膨大な種類の微生物が自然界に存在していることは疑いないことであります。  例えば高温、強酸性、強アルカリ性、高水庄などの極限環境を対象とした探索により、あるいは分離技法の工夫により、新しい微生物の発見が行われております。また、自然環境、生活環境の変化に伴って新たに微生物の分離と調査を必要とする問題が生じてきております。
 種々の環境からの微生物の分離・培養には培地組成および培養条件の組合せにより特定の性質を持った微生物を優先的に生育させる方法、特定の教生物以外の微生物の生育を阻害する方法、あるいは物理的手法で分別する方法などがあります。微生物研究者は研究目的に応じて微生物の分離法、分離源に工夫をこらし、これまで様々な微生物についての分離方法に関する知見を蓄積してまいりました。
 しかしながら、“微生物の分離法”は微生物学の個々の分野においては、まとめられている例がありますが、これを包括的にとらえ、整理して記述する試みはなされておりません。
 これまで報告された微生物の分離法を整理し、微生物の分離に際して考慮すべき点を明確にすること、あるいは研究者が各個に開発して使用している工夫や技法を含めて、種々の具体的な分離例を集めて記述することは、新しい遺伝子資源の探索が強く求められている現在、研究の最初の段階をまず“微生物の分離”から始める諸分野の微生物研究者にとって大いに役立つものと考えます。
<編集委員一同>
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