序論

銀を主体とした写真記録材料が最も感度が高く、性能が安定しているという理由で最もよく使われていたと思われる。しかし、その特性は、通常の写真記録材料より1〜2桁高い分解能が要求され、漂白して使うことが多いなどホログラム以外にはあまり使われていない特殊性があったため、その需要は期待したほどのことはなく、ビジネスが成り立たないという理由で生産から撤退する大手メーカーが相継ぎ、遂に約10年ほど前、すべての大手メーカーが生産を中止した。最近になり、一部の写真材料の大手メーカーで再びホログラフィー用の感光材料の生産が始まったというニュースもあり、関係者を喜ばせているが、まだその規模は小さく、今後の見通しは明らかではない。  この様な状況に対応して、ホログラフィーの研究者・技術者は東欧を中心とした中小メーカーが生産するホログラフィー用銀塩写真材料を使ったり、銀塩以外の記録材料を見直すという傾向が盛んとなり、ホログラム記録材料に対する関心が却って高まるといった潮流が生まれた。事実、ホログラムの記録材料には非常に多くの種類があり、それぞれ特徴を持っているため、このような事態になる前から分野によってはよく使われていたが、それがさらに顕著となり各種の記録材料を検討したいという要望が増えてきた。しかし、ホログラムそのものが他の画像と大きく異なるため、その感光材料を網羅して解説した文献が少なく、充分な情報を得るために多数の文献を漁らなければならないという不便さを感じていた。このような傾向を改善するため、現在各分野で使われているホログラムの記録材料をできるだけ広く集めて、その特性、処理方法を明らかにし、併せてその実用分野を簡単に紹介するという方針が固まり、本書が出来上がったわけある。  執筆者は各分野でホログラフィーの研究、技術開発を行っている第一人者を選び、それぞれの得意とする分野でホログラムの記録材料を主眼として執筆を依頼した。たぶんこのような目的で書かれた1冊の専門書は、国内はもちろん外国にも例が無いものと思われる。本書によって、ホログラムの記録材料についての豊富な知識を吸収していただき、この分野の発展のお役に立てていただければ幸いである。

2007年5月 辻内 順平
* Sean F. Johnston: Holographic Vision,(Oxford University Press, 2006) pp.489-490
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