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発刊にあたって

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日本における食品冷凍事業の歴史は,北海道で始まった魚の冷凍が初めてと言われ,1820年の操業からすでに100年以上が経過しています。
食品分野では確固たる位置にあると思われる冷凍食品ですが,2009年に取られた冷凍食品のあるアンケートでは,
『前の晩の夕食の残りを次の日に食べる場合,次のどちらを選びますか?
(1)冷蔵保存したもの,(2)冷凍保存したもの』という問いに対して,回答者全員が『冷蔵保存』と答えたそうです。
また,その理由を書く欄には『冷凍すると美味しくなくなる』という回答が七割以上あったようです。
どうして,冷凍解凍の操作があると,食べ物の味が落ちるでしょうか。
そこには学問的な裏付けのあるノウハウやコツがないからだと思われます。
食品分野では人気のなかった冷凍解凍技術ですが,今日では食品に対する人々の考え方も変わり,
『冷凍や解凍は美味しくなくてもしょうがない』とは言えなくなっています。その理由として,
例えばSDGsの実現に向けたフードロスの削減を達成するための手法として,冷凍解凍の技術が必須になっています。
また2013年に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたことを受け,世界的に日本食が一大ブームとなっており,
食品や食材を輸出する際にも冷凍解凍技術の革新が求められています。
一般消費者においても,長引くコロナ禍を背景に「おうち時間」が増え,冷凍食品への注目が非常に集まっています。
また,共働きの一般化による家事負担の軽減から,調理にかける時間の短縮が求められています。
このような状況は数字にも表れており,2021年の家庭用冷凍食品の国内生産数量と出荷額はともに業務用を上回り,
生産数も過去最高となりました。
このように冷凍食品の進化と社会的なニーズがありますが,一方で食品の冷凍解凍に関する開発は,
すでに成熟された分野と考えられ,これ以上の開発が必要ないと思われがちです。
しかし,環境,エネルギー,暮らしが,ごく短時間で一変する今日だからこそ,社会や産業から食品の冷凍解凍に求められる内容も変化し,
これに合わせた技術革新と研究のイノベーションが求められています。
本書では産学官の専門家に11 章34 節に分かれ,食品から機械までの基礎研究や実用技術,規格,味の評価方法に至るまでの広範囲を,
特に伝えたいエッセンスの部分を強調して解説していただきました。極力,専門用語を避け異分野の読者でも理解できるような工夫をしています。
きっと読者の方が直接的間接的に参考にしていただくための本として役に立つと思います。そして,本書が令和の時代を牽引するための,
新しい研究や新事業の切掛けやヒントとなり,世界を先導するための技術の一助となることを切に願います。
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監修 上智大学 堀越 智 |
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食品の冷凍・解凍技術と商品開発 |
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